榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

いかに死を迎えるかの参考になる、87歳・神津善行と85歳・中村メイコの本音のエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1771)】

【amazon 『87歳と85歳の夫婦 甘やかさない、ボケさせない』 カスタマーレビュー 2020年2月19日】 情熱的読書人間のないしょ話(1771)

群れたエナガたちは、餌を求めてサーカスのような目まぐるしさです。シジュウカラ、シロハラをカメラに収めました。カワヅザクラが咲き始めました。因みに、本日の歩数は10,591でした。

閑話休題、エッセイ集『87歳と85歳の夫婦 甘やかさない、ボケさせない』(神津善行・中村メイコ著、幻冬舎)では、87歳の神津善行と85歳の中村メイコが交互に本音で語っています。

●メイコ=アラン・ドロンが年をとってからは、リチャード・ギアに乗り替えたけれど、そのリチャードもすっかり老けて、今ではセカンド・ギアです。天下のイケメンも、天下の美女も、あなたも、私も、みんな、みんな年をとります。老いるという点では、神さまは人間を平等におつくりになったのです。老いを避けることはできないのだから、悩んでも仕方ありません。悩むよりも、老化のデパートと化したみずからの姿を少々離れたところから眺めて、茶化して、おもしろがるのがいちばん。

●神津=若いころから、死というものがあまり怖くなかったのですが、それでも、最期は「さよなら」を言ってから旅立ちたい気持ちはあります。だから、食べものを詰まらせて息ができない状態で死ぬことは、できれば避けたいのです。とはいえ、いくら用心しながら食べていたとしても、喉の筋肉も、また周辺の神経も衰えた年寄りには、それを完全に防ぐことはむずかしいと思います。ぼくもおそらく、また同じことをくりかえすでしょう。それは仕方のないこと、と覚悟をしておいたほうがよさそうです。年をとることは、死と背中合わせで生きるということなのですから。

●神津=地球がまわり続けて、朝、昇った太陽もゆうべには沈むのと同じで、生まれてきた以上、かならず死ぬのが人の定めですから、自分だけ死を免れようというのは、どだい無理な話です。ぼくは、どうせ死ぬのなら病院ではなく自分の家がいいと思っています。・・・人はかならず死にます。これも大自然の法則です。ですから、どのように死ねばいいのかを考えなくても、神さまがちゃんとあの世へつれていってくださるでしょう。第一、そのようなことを考えたからといって、何ができるわけでもありません。生きていれば、日々、いろいろなことが起きます。それらを風のごとく受けながら生きていくのが人生であり、そして、ある日、その風がちょっと強かったので、コロッと逝ってしまいました、とそのぐらいの感じで死をとらえて生きていくのがいいと思っています。

●メイコ=私は死ぬことは怖くありません。この年齢まで生きていると、あっという間に死んでしまった人たちを何人も知っています。昨日まであんなに元気だったのに、今日はもう冷たくなっているし、動かないし、しゃべらないし・・・。死ぬというのは、境界線をひょいと跳びこえるようなもので、人は案外、簡単にあの世へ逝くものだと、そのたびに感じました。生死をわけるその境界線は、案外、細いもののようです。細い境界線をひょいと跨ぐだけでいいのですから、恐るるに足らず、です。しかも、私は無宗教ながら、あの世があると信じています。

●メイコ=神津サンがいなくなったら、私は老人ホームに入るつもりでいます。子どもたちに私の介護をさせるわけにはいきませんし、そのような負担を子どもたちにかけたくないのです。入居する老人ホームも目星をつけてあります。・・・私はひとりが大好き。テレビと本さえあれば、老人ホームでひとりでもさみしくはありません。最期の日まで、おだやかに、機嫌よく、淡々とひとり暮らしを楽しむつもりです。

●神津=そもそも、数億年すれば太陽が膨張して、地球が燃えてなくなることはほぼ確実で、そのときには、お墓も当然、燃えてなくなるわけです。未来永劫、お墓が続くなどと考えるのは、みずからの知識のなさを証明しているようなものです。

●メイコ=人は2回死ぬ、とよく言われます。1回は肉体が滅びたとき、あとの1回は、その人の記憶が人々から消えたとき。もしそうなら、お墓は2回死なないように、故人を思い出しに行く場所ということになります。・・・お墓というものにさして思い入れのない私の場合、分骨してもよし、しなくてもよし、が基本的なスタンスです。

●メイコ=(神津サンの)四十九日が終わったころには、私は老人ホームに入ることになるでしょう。そこで、お迎えがくるのを待ちながら、テレビ三昧、読書三昧の、冬の陽だまりのようなおだやかな日々をすごしたいと思っています。

本書を読み終えて、3つのことが印象に残りました。1つは、神津とメイコほど性格や考え方が違っていても、夫婦として仲よくやっていけるのだなということ。もう1つは、自分や妻がいかに死を迎えるかの参考になったことです。最後の1つは、数億~10億年後には地球死滅の日が来ることが、いよいよ知れ渡ってきたなということです。