榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

椎名誠の写真+文章のエッセイ集は、やはり、椎名誠ワールドだった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1785)】

【amazon 『毎朝ちがう風景があった』 カスタマーレビュー 2020年3月4日】 情熱的読書人間のないしょ話(1785)

クリスマスローズをカメラに収めました。

閑話休題、『毎朝ちがう風景があった』(椎名誠著、新日本出版社)は、椎名誠の写真+文章のエッセイ集です。

「怖くて美しいチベットの女神」の一節。「この写真はチベットのある古寺で見た仏様である。チベットにはいろんな仏様がおわして、その仏像もいろいろあるのだが全体にみんなこんなふうに美しくて怖い。・・・そしてみんなこんなふうに憤怒の表情をうかべているので、ひとりでそういう仏様の並んでいるところにしばらくいるといささか怖くなったりする。自分のいろいろやましい人生のアヤマチを見透かされているような気持ちになり、思わず本気でひれ伏したくなる」。写真を見ると、美しいが、本当に怖い顔をしています。

「ラサから八百キロのところで」は、いい話です。「チベットの人々は熱心な仏教徒がほとんどで、彼らの一生の願いや目的は、チベット仏教の聖山であるカイラスへの巡礼を果たすことだ。ラサからカイラスまではおよそ千キロ。ここに至るまでは四千~四千五百メートルぐらいの高山地帯を進んで行くしかない。巡礼の方法はいろいろあって、時間のある人は歩いて行くし、村単位でトラックの荷台に大勢が乗り込み、集団で移動していく方法もある。最も尊敬される巡礼の方法は、五体投地拝礼という体を折り曲げて大地に頭を打ち付け、下半身をずり上げて立ち上がり、両手をあわせてまた大地にひれ伏しながら進んでいく拝礼の仕方だ。・・・写真の二人は若い夫婦で、この五体投地拝礼をしながらカイラス巡礼をしていて、今は昼の休憩および昼食をとっているところだった」。その写真には、「長くきびしい巡礼の旅を続けている。喜びは夫婦でいつもいられること。こうして苦楽を共にできることだ」というキャプションが付されています。

「演歌の情念を研究する」は、椎名の面目躍如です。「女は恋に破れるとどうして北へ行くのだろうか。いや、べつに恋に破れた全ての女がどこへ行くのか尾行して統計をとっているわけではないけれど、演歌など聞いているとたいてい北を目指しているということがわかる。あまりグアム観光やハワイに行ってフラ教室にはいる、などということはしない」。凍てつく雪の中、遠くまで一直線に延びている線路の写真が印象的です。