榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

米国の大量監視システムを暴露したスノーデンの自伝、そして愛の記録・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1809)】

【amazon 『スノーデン 独白』 カスタマーレビュー 2020年3月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(1809)

ヤエベニシダレが咲いています。あちこちで、さまざまな色合いのハナモモが咲き競っています。レンギョウが陽を浴びて輝いています。我が家の庭師(女房)から、オダマキが咲いたわよ、との報告がありました。因みに、本日の歩数ハ10,003でした。

閑話休題、『スノーデン 独白――消せない記録』(エドワード・スノーデン著、山形浩生訳、河出書房新社)は、米国の大量監視システムを暴露したエドワード・スノーデンの自伝であり、愛の記録です。

「諜報の流れを管理し接続する仕事から、それを永遠に保存する方法を考案する仕事に移り、さらにそれがあらゆる場所からアクセス検索できるようにする仕事へと進んだわけだ。こうしたプロジェクトが明確になってきたのは、29歳でNSA(全米国家安全保障局)との新規契約のために移ったハワイでのことだった」。

「アメリカ政府は、その建国の憲章をまったく無視して、まさにこの誘惑の犠牲となり、いったんこの有毒の果実を味わったら、もはやどうしようもない熱にうかされてしまった。アメリカ政府は秘密裏に大量監視の力を身につけた。これは定義からして、罪人たちよりも無実の人々にはるかに大きく影響する権限だ。監視とその害についてもっと完全な理解に到達してやっと、ぼくたち市民――ある一国のみならず、全世界の市民――が、このプロセスで投票はおろか、自分の意見を述べる機会さえ与えられなかったという認識につきまとわれるようになった。ほぼ全面的な監視システムは、単に同意なしで設置されたというだけではない。その計画のあらゆる側面を意図的に知らせず隠すような形で設置されたのだった。変化する手順やその影響は、あらゆる段階でほとんどの立法者を含むほとんどの人々から隠された。誰に訴えればいいだろう? 誰に話をすればいいだろう? 真実を囁くだけでも、弁護士や裁判官や議会に対して告げるだけでも、あまりに重い刑事犯罪にされており、最も漠然とした事実の概略ですら連邦刑務所で終身刑となってしまう。ぼくは途方に暮れ、良心と苦闘する中で暗い気分へと沈んで行った」。

「国の自由は、その市民の権利尊重によってしか計測できず、こうした権利は実は国の権力に対する制限であり、政府がずばりいつ、どこで個々人の自由の領域を侵犯してはいけないのか定義しているのだとぼくは確信している。これはアメリカ独立革命では『自由』と呼ばれ、インターネット革命では『プライバシー』と呼ばれるものだった。世界中の、先進的だと言われる政府がこのプライバシーを守るという約束を軽視しているのを目撃したので、ぼくは告発した。もうすでにそれから6年になる」。

「ぼくは――そして国際連合も――このプライバシーを基本的人権だと考える。だがこの6年にわたり、こうした軽視は続く一方で、その間に民主主義国は専制主義的なポピュリズムへと退行した。この退行が最も露骨に出ているのは、政府とマスコミとの関係だ。選出された公職者がジャーナリズムを骨抜きにしようとする試みは、真実の原則に対する全面的な攻撃により後押しされ、促進されている。何が本当かが、意図的にフェイクとごっちゃにされ、そこで使われている技術は、その混同を空前の世界的な混乱へとスケールアップできてしまう。ぼくはこのプロセスを十分身に染みて理解している。というのも非現実の創造は、諜報業界の最も恐ろしい技術だからだ。ぼくのキャリア期間だけですら諜報を操作して戦争の口実を作り出したその機関は――そして違法な政策と影の法廷により、誘拐を『超法規的移送』として、拷問を『拡張された尋問』として、大量監視を『バルク収集』として許容したその機関は―― 一瞬のためらいもなくぼくを中国の二重スパイ、ロシアの三重スパイ、いやもっとひどい『ミレニアル』呼ばわりさえしたのだった」。

スノーデンの、自らが正しいと信じることへの使命感と行動力には脱帽あるのみです。

その彼の亡命をサポートしたサラ・ハリソンの勇気ある行動にも、深い感動を覚えました。彼女はウィキリークスのジャーナリストで編集人だが、スノーデンは、こう語っています。「(サラと)共に過ごした時間は、生涯の友情でぼくたちを結びつけた。彼女が一緒に過ごしてくれた数週間について、ぼくは彼女の誠実さと勇気にずっと感謝し続けるだろう」。

告発を決意したスノーデンは、心から愛する恋人、リンジー・ミルズに危険が及ぶことを恐れて、彼女に何も告げずに逃避行に旅立ちます。その後、彼女はFBIの尋問、監視、メディアの注目、オンラインでの嫌がらせに晒され、混乱と苦痛、怒りと悲しみを味わうことになります。とこらが、本書は、こう結ばれています。「リンジーのロシア語はぼくのよりうまい。またもっと笑うし、もっと辛抱強く,鷹揚で親切だ。今夜、ぼくたちは記念日を祝う。リンジーは3年前にここに引っ越してきて、2年前の今日、ぼくたちは結婚した」。ああ、よかった、私もホッとすることができました。