榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

交通誘導警備員の喜びと悲しみ、時々怒り・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1818)】

【amazon 『交通誘導員ヨレヨレ日記』 カスタマーレビュー 2020年4月5日】 情熱的読書人間のないしょ話(1818)

さまざまな色合いのヒラドツツジが咲き始めました。ドウダンツツジ、ハナズオウ、ヤマブキの花が咲いています。フサザキズイセン、キズイセンも頑張っています。レッドロビンが赤い新葉を付けています。

閑話休題、『交通誘導員ヨレヨレ日記――当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます』(柏耕一著、三五館シンシャ)は、73歳の交通誘導警備員の2年半に亘る体験談です。

「余計なお世話かもしれないがテレビを見ていると、失業してホームレス寸前の人やマンガ喫茶に寝泊まりする人たちの姿がよく取り上げられている。肉体的に健康で精神的にも病んでいない人々を見るにつけ、この人たちの何割かはこれほど苦しい生き方を余儀なくされるなら警備の世界に活路を見出せるのにと思うこともある。警備を一生やりなさいと勧めるわけではない。働けば日払いもあり家がなければ寮もある。嫌が応でも社会とのつながりもできる。とりあえず就業すれば最低限の社会生活が可能なのが警備員かもしれない。仕事として楽しい楽しくないは別として、決して悪い選択ではないのではないか。土壇場に追いつめられた人にとって交通誘導員の仕事は社会との最後の『蜘蛛の糸』かもしれない」。

「この会社の最高齢警備員は84歳ということもそのとき知った。その最高齢警備員の加地矢と一緒に警備することになったのは、入社3カ月後だった。ある駅前のパチンコ屋の駐車場警備員として、加地矢はすでに4年ほどほぼ常駐スタッフとして働いていた。月に20勤務ほど朝7時半から午後3時半の早番と、午後3時半から午後11時20分までの遅番を適宜組み合わせたシフトをこなしていた。・・・加地矢は小柄だがぜい肉もなく耳が少し遠いことを除けば健康そのものだった。年齢は84歳と教えられればそうかなと思う程度で、そのわりには体力があった。加地矢は元左官で、それもかなり多くの弟子を抱えた成功者だった。・・・連帯保証人になったことが大きな躓きだった。・・・なんでも彼女(入院中の元行きつけのスナックのママ、91歳)の面倒を見る人がいないのと住まいが近くなので、病院への送迎や入院手続きなどを含め、加地矢がなにくれとなく世話をしているのである。・・・なにしろ見返りはまったく期待できないからだ。警備員にもこんな立派な(年上の女好きの)エロ爺さんがいることを知ってもらいたくてここに記した」。

「(フィリピン人の作業員の)彼は口笛を吹きそうな陽気な口調で話してくれた。人なつこい彼と話しているとこっちも楽しくなってくる。先ほどの不愉快な針金監督のことなどすっかり忘れてしまった。彼の幸運を祈りたくなった。そんな会話を交わしながら以前、他の現場で出会ったインドネシア人、ベトナム人、モンゴル人、イラク人のことを思い出した。みんな働き者のように見えた。日本人の若者がやりたがらない力仕事や汚れ仕事には、彼らのような外国人の助けが必要なのだ。彼らを雇う側にも外国人ゆえの文化の違い、考え方の違いがあってそれなりの苦労はあるようだ。『仕事を覚えると、条件のいいところを探してすぐ辞めてしまう』と嘆く親方もいるが、それでも現場は彼らの力なしでは回らない。共存共栄が理想だ」。

「私は戸建て住宅建築警備で一緒になったベテラン警備員の紺野にあることを聞いてみた。紺野とはすでに5、6回警備をともにしていたので気心は知れていた。年齢も近い。『警備員の喜びって何ですかね』。すると紺野は眉ひとつ動かすこともなく『そんなものないよ』と答えた。私は『そうかもしれませんが、早上がりは嬉しいし、ラクな現場はなんとなく楽しくないですか』といささか的外れ気味の質問を重ねてみた。『柏さんはそれが警備員の喜びと言うわけ? それは違うんじゃない。この現場の監督や棟梁なら家を一軒作り上げたときには、無から有を生じたわけだから喜びを実感すると思うよ。しかし、われわれには物を作り出す喜びはないからね。警備員は一日働けば足だって棒のようになるし、寒さ暑さに直撃されるし、喜びより疲れだけが残る仕事だよ。ボクは警備業は忍耐業だと思っているけど』」。

「さまざまな現場で仕事をしてきて思うのは、人柄のいい親方の下には粗暴な作業員はいないし、乱暴な言動をする親方の下には同じような作業員が多いことだ。警備員に『おいオマエ』などと言って話しかけてくる親方の現場には誰でも行きたがらない。・・・警備員はみな見て見ぬふりをしているが、こういう作業員のいる現場には行きたがらないのも事実である。警備会社が依頼先と取引を打ち切る理由のひとつは警備員不足もあるが、その際真っ先に切られるのは警備員の行きたがらない会社だ」。

「警備員はドライバーを言い負かすことが仕事ではない。あくまで協力をお願いする立場なのだ。そんなとき、コミュニケーション能力が試される。高齢者は若い人に能力的に劣ることが多いが、コミュニケーションという面では年の功もあるのだ。そんなところが警備業務の奥深さかもしれない」。

「『できる人・できない人』の割合だが私の独断的評価では、できる警備員は全体の2割、できない警備員は1割、その他の7割が可もなく不可もなくというところか。できる警備員とはどんな現場に行ってもどんなポジションに立とうともすべて及第点以上にこなし、警備員の手本になる人。できない警備員は監督や作業員から時に『帰れ』と怒鳴られたり、『○○さん、困るよあの人だけは』と同僚からも忌避される人。その他7割の警備員は現場やポジションによって評価は上下するものの、警備員として一定の役割は無難に果たす人である」。著者は、「できない警備員」のタイプを4つ挙げています。①注意力散漫な人、②無責任な人、③何も考えない人、④空気を読めない人。「(社会は、さまざまなタイプの人間の)持ちつ持たれつで成り立っている。警備業界をつぶさに観察するとまさに社会の縮図というのはそういうことでもある」。

いろいろと考えさせられるドキュメントです。