北米の黒人女性たちは、どうやって生き延びてきたのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1848)】
エクスバリーアザレア(黄色)、オニゲシ(オリエンタル・ポピー。赤色)、アカツメクサ(ムラサキツメクサ。薄紫色)、アカツメクサに寄生するヤセウツボ(白色)の花が咲いています。なお、エクスバリー・アザレアは園芸品種で、片方の親のキレンゲツツジより黄色が濃く、鮮やかです。我が家の庭の片隅で、大輪のガザニア‘ガズー’(橙色、黄色、白色)が咲き競っています。
閑話休題、『塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性』(藤本和子著、岩波現代文庫)は、著者が、40人を超える北米の黒人女性から行った聞き書きで構成されています。彼女たちが、アフリカからの離散、奴隷、虐待、蔑視、貧困といった歴史的体験を生き延びることができたのはなぜか、また、その力はどこからやってきたのか――を、著者は突き止めたかったのです。
とりわけ印象深いのは、ジャクソンのトゥガルー大学在学中に公民権運動に参加したアン・ムーディが、1968年に出版した『ミシシッピーの青春』という自伝の内容です。
「アンは高校生になった。新学年の始まる1週間前、14歳の黒人の少年エメット・ティルが白人の女性に向かって口笛を吹いたと非難され、それを理由に白人の男たちに惨殺された。ミシシッピーのグリーンウッドで、アンはその町でも『もっとも意地の悪い』バーク夫人という白人女性のところで家事をして働いていた。バークは『なぜエメット・ティルは殺されたか知っているかい、白人の女性に対して身のほどをわきまえない振舞いをしたからだよ。ミシシッピーの黒人の男たちなら、わかっただろうよ。その子はシカゴからきたんだってさ。北部のニグロたちは尊敬ということを知らないからね』と熱っぽくいうのだった。アンはその時初めて、『黒いというだけで殺されるのだ』という新たな恐怖を体験した。・・・(学校の教師)ミセス・ライスはアンを夕食に招き、南部ではいたるところで黒人が虐殺され惨殺されていることを話してくれた。アンは『自分がこの世でもっとも下等な生き物のような気がした』と書いた。アンの同級生の少年が白人たちに裸にされ縛り上げられ、殴られた。血を流していた少年を黒人は医者に連れて行くこともできなかった。白人の医者にどのような目にあわされるかわからないという恐怖で。そしてタプリンという一家は全員焼死した。ガソリンによる放火だった。FBIはきたが、この一件は結局うやむやにされたままだった」。
「アンが感じていた日常的な恐怖、黒人たちが呼吸するごとに感じていた恐怖。・・・センターヴィルの黒人を組織しようとしていたサミュエル・オキンが殺された。弾丸は胸を貫き、にぎりこぶしが入るぐらいの穴を残した。・・・マーティン・ルーサー・キング牧師がアラバマにおいて果たした役割を、ミシシッピー州に対して果たすことになるだろうと期待されていたジャクソンのNAACPの指導者メドガー・エヴァースは白人の手で殺されてしまった。『どういうことなのか、それを考えるためには留置場へ行く必要があった。その頃わたしがものを考えることができたのは留置場だけだったから』と(公民権運動に参加し逮捕された)アンは書いた。・・・(アンが移った)マディソン郡はミシシッピーでも、たえず黒人が死体となって発見される最悪の土地の一つだった。性器を切り取られ、ク・クラックス団のKがからだじゅうに彫りこんであるような、男たちの死体。そこでアンは高校生たちの手を借りて投票者名簿への登録を勧誘してまわった。ワークショップも開いた。しかし白人からの脅迫におののいて、手を貸してくれる土地の人の数は減っていった。活動資金はこなくなり、『幾日も、何も口にすることのできないことも』あった。・・・アラバマ州バーミンガムの教会で黒人の女の子が4人爆弾で殺されたのは。1963年9月、アンの23歳の誕生日だった。前月の、25万人を動員したワシントンへの行進から2週間しかたっていなかった。マーティン・ルーサー・キングが『わたしには夢があるのだ』と演説したあの大集会から、わずか2週間だった。非暴力主義は果たして妥当なのか、とアンは問うた。教会の爆破はそれまで彼女が信じてきたすべてに疑いを抱かせた。カントンにおける白人の脅迫はますます激烈になり、アンの神経はずたずたで、毛髪が抜けはじめた。彼女はクランの暗殺の対象としてブラックリストにのっていた」。
他の聞き書きにおいても、「白人の家庭で女中という仕事を経験した女たちは女主人から受けた劣悪な待遇や侮辱について語ることが多い。人種差別と偏見がかんたんに私刑(リンチ)や惨殺になって表現されることに対する戦慄についても多くが語っている。性的なはずかしめを受けたことについて、あるいはたえず白人の男性からの性的な攻撃から身をかわす緊張についても多くが語っている」。
差別問題を考えようとするとき、欠かすことのできない一冊です。