榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

このほど、後期高齢・独居老人のヒラノ元教授と友人になりました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1876)】

【amazon 『工学部ヒラノ教授の徘徊老人日記』 カスタマーレビュー 2020年6月2日】 情熱的読書人間のないしょ話(1876)

ツキヌキニンドウ(赤色)、スカシユリ(黄色)、サフランモドキ(ゼフィランサス・カリナタ。桃色)、ジャガイモ(淡紫色)が花を咲かせています。ハグマノキ(ケムリノキ、スモーク・ツリー)の雌木の花が散った後、伸びた花柄が煙のように見えます。

閑話休題、この年になって、新しい友人ができるとは思いませんでした。それも、私より5歳年上の後期高齢・独居老人です。その友人とは、エッセイ集『工学部ヒラノ教授の徘徊老人日記』(今野浩著、青土社)の主人公、ヒラノ元工学部教授です。

軽度の白内障と緑内障を抱えるヒラノ老人は、あれこれ迷った結果、画期的な手術法を開発した有名なA先生に、遠距離用レンズを挿入する白内障の手術をしてもらいます。「それでは目はどうなったのか。左目は眼球の白濁が除去されたおかげで、よく見えるようになった。一方右目は、もともとあまり悪くなかったので、以前とあまり変わらなかった。問題は、眼鏡の調整がうまくいかないことである。近見用1本、遠見用2歩の合計3本の眼鏡を注文したが、近いところがよく見えない。パソコン作業の際は、裸眼の方がいいくらいである。Nさんは7本の眼鏡を注文して、時間替わりで使いまわしているという。A先生は、『手術は大成功です』と宣ったそうだが、Nさんは納得していない様子だった。一方、日本一の名医に執刀してもらった老人をうらやんでいた、神戸在住の友人T氏は、地元の眼科医に執刀してもらったところ、予後は順調そのものだと言っていた。またもう一人の友人M氏は、かかりつけの医師に執刀してもらったところ、見え具合は学生時代に戻ったと言っていた」。このように、話が率直かつ具体的なので、そのうち白内障の手術を受けなければと思っている私としては、居酒屋の片隅で親しい先輩から情報を仕入れているような気分になってしまうのです。

「SNS情報によれば、『妻に先立たれた老人の6割は3年以内に死ぬ』そうだ。そう言われてみれば、知り合いの中にもそういう人が何人もいる。生活力が無い人、妻に頼り切っていた人、やることがない人は、空白の時間のせいで生きる力を失うのだ。・・・空白の時間を極端に恐れる老人は、妻が亡くなってからは、毎日10時間近くパソコンに向かった。原稿は1日5枚以上書ける日もあれば、2枚しか書けない日もある。しかし何か書いていれば、ウツになることは無かった。では何を書いていたのか。答えは『20世紀後半の日本の製造業王国を支えた<工学部>という組織と、そこに勤める天才(変人・奇人)たちに関する紹介本』である。中には『現役時代にお世話になった組織や後輩の顔に泥を塗る破廉恥行為だ』と非難する人もいたが、本人はかつて所属した組織や友人に対するオマージュだと自負していた」。生まれてこのかた、料理・洗濯・掃除なるものをしたことがなく、何から何まで女房に頼り切りの私の場合は、どうすればよいのでしょうか。

「マンションを処分すれば、自分が住むところがなくなるわけだが、ヒラノ教授はかねて満80歳を迎えたあたりで、介護付き有料老人ホームに入居しようと考えていた。現在のところ自立した生活を送っているが、アラ傘(サン)老人の腰や頭の状態は、いつおかしくなっても不思議ではないからである。友人の間では、自分の身の振り方は頭がダメになる前に決断すべきだ、という意見が大勢を占めている。ダメになってからだと、なるべく経費が掛からない施設に放り込まれるからである。ところが、『頭はもう5年くらいは大丈夫だろう――』。『女房が元気なので、まだ慌てる必要はない――』。『早く決めたいが女房が反対している――』などの理由で、具体的な手を打っている人は少ない。・・・ヒラノ老人は、自分で『終の棲家』を探すことにした」。このヒラノ老人の一歩進んで二歩下がる感じの介護施設探しは、これまた私にとって大いに勉強になりました。