ひこまごを食べ、恋人のタコを食べ、人身御供の黒人の娘たちを食べる、年をとったワニの物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1898)】
黄色いグラジオラスが咲く家の、昆虫、爬虫類に非常に詳しい小学生の女の子は、庭にジャコウアゲハの小さな墓を作っています。どうしてジャコウアゲハと分かったのか尋ねたところ、後翅が細長く、尾状突起が非常に長いからと答えるではありませんか。現在は、ユズの枝と紛らわしいナガサキアゲハの終齢幼虫を観察中とのこと。オシロイバナが芳香を漂わせています。黄色い花弁に見えるのは萼です。白色、桃色のセイヨウキョウチクトウも頑張っています。
閑話休題、絵本集『年をとったワニの話』(レオポルド・ショヴォー著、出口裕弘訳、福音館文庫)に収められている『年をとったワニの話』は、子供がどう感じるかは分からないが、私たち大人にとっては考えさせられる内容を含んでいます。
主人公は、何千年も生きてきた、たいそう年をとったワニです。「悲しいかな、とてもからだの調子がいい日でさえ、関節はぎしぎしと鳴り、しっぽのつけねはぎいぎいと音をたて、ずっとえさにしてきた動物たちに近よることなど、もう、とてもできなくなった」。
年をとったワニは、ひこまごの1匹を食べてしまったことを親族会議で責められ、住み慣れた土地を後にします。
年をとったワニは、海で出会った12本足があるタコと恋人関係になり、日々の食事をタコが獲ってくる魚に頼るようになります。
年をとったワニは、タコが眠っている間に、その足を1本ずつ食べてしまい、遂には、タコそのものを食べようとします。「夜になると、タコを愛しているワニは、とてもふしあわせなワニになってしまった。恋人を食べたいという欲望が、あまりにも強くて、どうしても、食べずにはいられなかった。なんとも、あわれなワニだ。タコは、とてもおいしかった。だが、食べ終わってしまうと、ワニは後悔のなみだを流した」。
ひとりきりになったワニは、退屈し、生まれ故郷に帰ってきます。「年をとったワニは、ナイル川上流の峡谷に住む黒人たちにあがめられて、いまだに生きつづけている。毎日、10才から12才までの黒人の娘が、人身御供にささげられ、ワニは大よろこびで、娘たちを食べる。食べられるとき、娘たちが、とてもしあわせそうなので、ワニのよろこびもひとしおだ」。
「年をとったワニが、同類のワニたちにとって、恐怖のまととなり、人間たちにとって、崇拝のまととなったのは、紅海の、あまりにも熱い海水のなかで、長いことすごすうち、知らぬ間に、ゆでたエビのような、まっかな色にそまっていたせいなのだ」と結ばれています。
この物語は、ワニに寄せて、人間の留まることのない欲望を皮肉ったのか、それとも、著者が息子のルノーぼうやを喜ばせようとしただけなのか、正直言って、私には分かりません。