榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

泳げないカマキリをマインドコントロールして、入水させてしまうハリガネムシ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1905)】

【amazon 『えげつない! 寄生生物』 カスタマーレビュー 2020年7月4日】 情熱的読書人間のないしょ話(1905)

オオシオカラトンボの雌、リンゴツノエダシャクの幼虫、オオヒラタシデムシをカメラに収めました。ヒマワリ、アサガオ、コスモスが咲いています。我が家に毎日やって来るアゲハチョウが、撮ってよと言わんばかりに翅を広げています。

閑話休題、『えげつない! 寄生生物』(成田聡子著、新潮社)は、世にも恐ろしい寄生生物たちが、ぞろぞろと登場してきて、身震いさせられます。

とりわけ私を激しく身震いさせたのは、●泳げないカマキリをマインドコントロールして、入水させてしまうハリガネムシ、●ゴキブリにロボトミー手術を施し奴隷と化してしまうエメラルドゴキブリバチ、●アリの死に場所・死ぬ時刻まで決めてしまうカビ、●イモムシの心も体も操るコマユバチ、●カニの全身に枝状器官を張り巡らし奴隷にしてしまうフクロムシ、●テントウムシの脳細胞を破壊し、体中を食い荒らし、自分を守らせるテントウハラボソコマユバチ――といった面々です。

彼らの代表として、カマキリに寄生するハリガネムシのケースを見てみましょう。

「水の中で泳げないはずのコオロギやカマキリ、カマドウマが川に飛び込んでいく様は、まるで入水自殺です。水に飛び込んだこれらの虫は溺れ死ぬか、魚に食べられるかしか道はありません。それにもかかわらず、なぜ彼らは水に飛び込んでしまうのでしょうか」。

「これらの入水自殺する昆虫たちの体内には、宿主の行動を操る寄生者が存在しています。それは『ハリガネムシ』という生物です。『ムシ』という名前はついていますが、昆虫ではなく、非常に単純な形態をした動物で、脚などの突起物はなく、目さえもなく、成体は1本の線でしかありません。まさに黒っぽい針金のような形状をした生物です」。

「(ハリガネムシの)卵は、川の中で1、2カ月かけて細胞分裂を繰り返し、卵の中で小さなイモムシのようになります。そして、卵から出てきたハリガネムシの赤ちゃん(幼生)は、川底で『あること』が起きるのをじっと待っています。何を待っているのでしょう。驚きですが、自分が食べられるのを待っています。・・・(カゲロウやユスリカなどの幼虫に)運よく食べられるのを待っているのです。食べられたハリガネムシの赤ちゃんは、ただエサとして消化されるわけにはいきません。この小さな小さなハリガネムシの赤ちゃんは『武器』を持っています。ノコギリのような、まさに、武器と呼ぶにふさわしいものが体の先端に付いており、しかも、それを出したり引っ込めたりすることができます。食べられたハリガネムシの赤ちゃんは、このノコギリを使って水生昆虫の腸管を掘るように進みます。そして、腹の中でちょうどよい場所を見つけると、『シスト』に変身します。『シスト』とはハリガネムシの休眠最強モードです。イモムシのようだった体を折りたたんで、殻を作り、休眠した状態です。この状態だと、マイナス30℃の極寒でも凍らず、生きることができます。この状態で次は、川から陸に上がる機会を待っているのです」。

「川の中で生活していたカゲロウやユスリカですが、成虫になると翅を持ちます。そして、川から脱出し、陸上生活を始めます。そのお腹の中には、眠っているハリガネムシの赤ちゃんがいます。やがて陸上で生活する、より大きなカマキリなどの肉食の昆虫が、ハリガネムシの赤ちゃんがお腹の中にいるカゲロウやユスリカを食べます。こうしてカマキリの体内に入ったハリガネムシの赤ちゃんは目を覚まします。カマキリの消化管に入り込み、栄養を吸収して数センチから1メートルに大きく、長く成長します。ハリガネムシは体表で養分を吸収するので口を持たず、消化器官もありません。カマキリのお腹の中のハリガネムシはもう小さな赤ちゃんではなく、見た目は立派な針金です。繁殖能力も持つようになります。そうなってしまうと、ハリガネムシはウズウズし始めます。なぜウズウズするのでしょう。人間も同じかもしれませんが、子どもから大人になると異性の相手を見つけたくなるのです。しかし、ハリガネムシの交尾は川の中でしかおこなうことができません。つまり、せっかく、陸にあがったにもかかわらず、結婚相手を見つけるにはもう一度川に戻る必要があります。そのために、本来、陸でしか生活しない宿主昆虫をマインドコントロールして川に向かわせるのです」。

「ハリガネムシが寄生しているカマキリなどの陸の昆虫は、川などには決して飛び込んだりしません。しかし、体内にいるハリガネムシは川に戻りたくたまりません。成熟したハリガネムシに寄生されたカマキリは、何かに取りつかれたかのごとく、川に近付くと、飛び込んでしまいます。その結果、溺れたカマキリのおしりから、大きく成長したハリガネムシがゆっくりとにゅるにゅると這い出てきます。そして、川に戻ったハリガネムシは相手を探して交尾をし、また産卵するのです」。

ハリガネムシは、カマキリをどうやって自殺させているのでしょうか。いまだに、そのほとんどは謎だが、「(コオロギのさまざまな)研究から、ハリガネムシは寄生したコオロギの神経発達を混乱させ、光への反応を異常にし、キラキラとした水辺に近づいたら飛び込むように操っているのではないかと考えられています」。

私の腹中にもハリガネムシがいるような気がしてきて、尻の辺りがもぞもぞします。恐ろしや、恐ろしや。