榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

人間とは何かを、さまざまな視点から科学的に探った一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1922)】

【amazon 『若い読者のための第三のチンパンジー』 カスタマーレビュー 2020年7月19日】 情熱的読書人間のないしょ話(1922)

昆虫少年ならぬ、昆虫老年の私にとって、今日は感激の一日となりました。頭上の右方から飛んできたヤマトタマムシが高木の幹に止まる瞬間を、数十年ぶりに目撃することができたからです。胸を躍らせながら写真を4枚撮ったところで、飛び去ってしまいました。ナガサキアゲハの雄(写真3の下、写真4)、雌(写真3の上、写真5)、アゲハチョウ、ツマグロヒョウモンの雄、オナガ、コゲラをカメラに収めました。セミの幼虫たちが地上に出てきた穴がたくさんあります。キバナコスモスが咲いています。

閑話休題、『若い読者のための第三のチンパンジー ――人間という動物の進化と未来』(ジャレド・ダイアモンド著、レベッカ・ステフォフ編著、秋山勝訳、草思社文庫)を、久しぶりに読み返しました。

「第3のチンパンジー」とは、コモンチンパンジー、ボノボ(ピグミーチンパンジー)に続く第3のチンパンジー、すなわち人間を意味しています。

本書を貫くテーマは、「人間とは何かを科学的に探る」で、その歴史、特徴、問題点が、幅広い視点から考察されています。

そして、本書には、『銃・病原菌・鉄―― 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳、草思社文庫、上・下巻)で精緻に展開される下記のごとき仮説の萌芽が見られます。

「現代世界においては、ユーラシア大陸系の民族、とりわけヨーロッパや東アジアにいまでも暮らしている民族と、ユーラシア大陸から北アメリカ大陸への移民を祖先とする民族とが、世界の富と権力を支配している。アフリカ大陸の多くの民族をはじめとする人びとは、ヨーロッパ人の植民地支配を払拭したものの、世界の富や権力を手にするにはほど遠いところにいる。オーストラリア大陸の先住民アボリジニ、南北アメリカ大陸の先住民、そしてアフリカ大陸最南端の人びとは、白人の入植者によって自分たちの祖先の土地を奪われている。彼らの祖先の多くは、白人の入植者によって殺戮され、征服され、あるいは絶滅させられているのだ。したがって、現代世界における各社会間の不均衡についての疑問は、つぎのようにいいかえられる。世界の富や権力は、なぜ現在あるような形で分配されてしまったのか? なぜほかの形で分配されなかったのか? たとえば、南北アメリカ大陸の先住民、アフリカ大陸の人びと、そしてオーストラリア大陸のアボリジニが、ヨーロッパ系やアジア系の人びとを殺戮したり、征服したり、絶滅させるようなことが、なぜ起こらなかったのだろうか」。ジャレド・ダイアモンドは、この富や権力の不均衡は、南北に長いアフリカ大陸や南北アメリカ大陸よりも、東西に長いユーラシア大陸のほうが文明が伝播し易いという、単なる地理的な要因によるものだという仮説を提示しています。すなわち、ヨーロッパ人が人種的に優秀だったからだという偏見に異議を唱えているのです。

「過去に犯した自己破壊的な行動から学べるものがあるにもかかわらず、多くの人たちはあまり深く考えないまま、人口には制限を加えるしかるべき理由は見当たらないとか、環境をしいたげることを中止する理由もないなどと考えている。なかには自分の利益のため、あるいは無知から環境破壊に加担している人たちもいる。さらに多くの人が生き残ることに必死で、将来に思いをめぐらせるほどの余裕はない。こうした事実が物語っているのは、環境破壊は制止できるようなものではなく、私たち人類もまた『生きる屍』のひとつであり、その将来はほかの2種のチンパンジーの将来同様、荒涼たるものだということを暗示している」といった絶望的な見方に対し、著者は、「私たちが置かれた状況は決して希望がないわけではないと私は信じている。こんな問題を生み出したのが私たちだけであるなら、その問題を解決できる力も私たち自身にしっかりと備わっている。地理的に遠く離れ、また過去のことであろうと、種のほかの仲間の経験から学びえることができるという点において、人間は唯一の動物なのだ。人口増加の抑制、自然生息地の保護、そのほか環境保全のためのさまざまな試みなど、惨事を回避しようとする現実的な方法の多くに、希望のきざしがうかがえる。多くの政府でこうした政策のいくつかがすでに実行に移されている」と、希望を述べています。