北斎の「冨嶽三十六景」に、こんなに多くの見所があったとは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1953)】
あちこちで、キノコが頑張っています。
閑話休題、『THE北斎――冨嶽三十六景ARTBOX』(奥田敦子編著、講談社)は、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」をしゃぶり尽くす手がかりを、次から次へと与えてくれます。
「江戸の町のあちこちから東海道の宿場、さらには常陸(茨城県)から尾張(愛知県西部)まで、北斎の描いた『冨嶽三十六景』は全46景。有名な富士ビューポイント、江戸名所、そしてとても富士山は望めない場所も?」。
北斎の「冨嶽三十六景」が、河村岷雪の「百富士」から多大な影響を受けていることを、本書で初めて知りました。岷雪という画家にも興味が湧いてきました。
「空間を構成する」、「○×△で作られた世界」、「驚異の自然」、「形のないものを捉える」、「イリュージョンを仕掛ける」、「超絶表現」という6つの角度から、「冨嶽三十六景」が俎板に載せられています。
「深川万年橋下」の右下隅に描かれている、のんびり釣りをする男がほのぼの感を醸し出しています。「釣った魚で今夜は一杯!」。
「五百らかん寺さゞゐどう」の外縁を巡る回廊で富士山を眺める人々の夏の装いから、蒸し暑さが伝わってきます。「暑くて月代(さかやき)が焼けちまう」。
「御厩川岸より両国橋夕陽見」の渡し舟には、さまざまな乗客が乗っています。「一日やっと終わったよ」。「冨嶽三十六景」の版元・永寿堂の商標入りの風呂敷包みを背負った商人の姿も、ちゃっかりと描き込まれています。
「甲州三島越」の巨木の根本には、3人の旅人が手を繋いで太さを計測しようとしている姿がユーモラスに描かれています。「3人じゃ、とても足りねぇ」。
「青山円座松」では、右手前の親子連れと弁当を広げて酒を酌み交わす男たちが目につくが、実は、左下の松の下にも松葉搔きをする人物が描かれているのです。「俺がいるの気がついた?」。
「駿州江尻」は、「冨嶽三十六景」で私の一番好きな作品です。「(北斎が)描きたかったものは『風』と考えられています。女性の懐から舞い上がる懐紙、散る木の葉、翻りながら飛んでいく旅人の笠、飛ばされまいと土手に踏みとどまる男性の描写など、絶妙な表現力で風という形のないものを捉えています」。「コンチクショー、風に負けるもんか」。
「従千住花街眺望ノ不二」では、参勤交代の大名行列を眺めながら、遠くの畦道でくつろぐ2人の農婦が描かれています。拡大された絵を見てみると、彼女たちが色白な、なかなかの美人であることが分かります。
「本所立川」の材木置き場の入り口の表札には「西村置場」、立てかけてある材木には「馬喰丁弐丁目角 西(村)」、「永寿堂仕入」、「新板三拾六不二士(仕)入」という宣伝文句が抜け目なく書かれています。北斎は、なかなかの商売人ですね。