君も、キツネに見えるクジラ、クジラに見えるキツネに会えるかも・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2005)】
ツノナス(フォックスフェイス)の黄色い実が目を惹きます。
閑話休題、『キツネクジラ』(鈴木光絵文、柿﨑かずみ絵、文芸社)は、私の幼い頃を思い出させる絵本です。
「ぼくの誕生日は夏休みにやってくる。ぼくは決まって、おじいちゃんとおばあちゃんが住む田舎の町へ遊びに行くんだ。山に囲まれた小さな小さな町。けれど、ぼくの住むビルやコンクリートだらけの街とはちがい、雨のにおい、風のにおい、土のにおいまでが、『ようこそ、今年もおめでとう』と10歳になったぼくのことを、かんげいしてくれる。そんな町なんだ。野山を駈けまわって、汗びっしょりになった後は、とうめいな川へ、いちもくさん。夜は一面に光るホタルを見ながら、スイカを食べたり、ゆでたてのトウモロコシを食べたり・・・。それにお祭りに花火大会、田舎で過ごす夏の時間は、ぼくをわくわくさせるんだ」。
これは、毎年、夏休みに父の田舎、筑波山の麓の祖父、祖母の家に遊びに行った私の子供時代そのままです。
ある日、「いとこの姉ちゃんがぼくを呼んだ。なんとなくいつもより静かな口調が気になった。『今から言う話は、お母さんとかに言っちゃだめよ。大人はね、こういう話、たいてい信じてくれないから』。・・・『いつも遊びに行く桜の森あるでしょ、あそこの川をわたって、おくに入っていくと古い神社があるでしょ』。少し間をあけて、こくんとうなずいた。ぼくはまた連れていかれるのかと思い、不安になった。正直あの神社が苦手だった。なぜかって? 何せあそこに行くまでには、えらい山道を通らないといけないんだ。鳥たちの声がたまに聞こえるものの、とにかく昼間でも、うす暗いんだ」。
「『じつはね、こないだ、となりのおばあちゃんが話してるのを聞いたんだけど・・・あそこの神社には古くからの言い伝えがあるらしくて・・・』。姉ちゃんはいっそう小さな声で話しだした。『あそこの神社の社殿の周りを、ケンケンで・・・ケンケン知ってる? 片足でジャンプするのよ。それで、足をつかずに3周まわると、空飛ぶキツネが出てきて、それを見た人は幸せになれるんだって! あれ? クジラだったかな? どっちでもいいや。いっしょにやってみない?』」。
姉ちゃんはちゃんと3周できたのに、ぼくが途中で足をついてしまったためか、キツネもクジラも現れませんでした。「姉ちゃんは、ぼくが足をついたなんて疑わなかった。ぼくは足をついたことを言えなかった」。
2年後、「無性に例のむかし話のことが気になった」ぼくは、再挑戦します。3周し終えた時、突然、「キツネに見えるクジラ。クジラに見えるキツネ」が姿を現したではありませんか。その後、ぼくがどうなったかは、ひ・み・つ。