一夫一妻の生殖システムを強固にするため、人間の「愛のあるセックス」が進化した・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2131)】
野鳥に造詣の深い観察仲間のSさんから教わった場所で、地蔵のように息を詰めて、3時間張り込んだ結果、クロジの雌(写真1~5)が採餌する様子をじっくり観察することができました。クロジの雄(写真6~8)、ルリビタキの雌(写真9~11)、アカハラ(写真12)、シロハラ(写真13、14)をカメラに収めました。
閑話休題、『これからの時代を生き抜くための生物学入門』(五箇公一著、辰巳出版)で、とりわけ興味深いのは、「『セックス』は生物学で一番面白いテーマ」、「ウイルスを超える!? 狂牛病の原因プリオン」、「かつては里山が生物多様性を支えていた」の3つです。
●セックス――。
「生物学的に見るとオスは悲しい存在です。メスに試され、メスのお眼鏡に適うために、一生懸命アピールしたり、ケンカしたり、常に命がけの求愛に走り続けなくてはなりません。メスとの交尾を果たせなかったオスは早々に天敵に喰われるか、仲間から喰われるか、寿命がメスより早くきて死んでしまうという末路をたどることになります。ただし、現代の人間社会だと男は独身でもそうした厳しい自然淘汰を受けずに生き残り、それなりに自分の人生を謳歌し続けられます。実にありがたいことです。世の男性諸氏は人間に生まれたことに感謝しなくてはなりません」。
「しかし、それでもオスはオス。人間のオスも本能的にできるだけたくさんのメスと交尾しようとする性質が潜在しています。隙あらば別のメスとも懇ろになりたい・・・。それがオス=男の性(さが)です。でも、それではメス=奥さんの方はたまったもんじゃありません。別の女性にエサを持って行かれたのでは自分と子どもの命に関わります。なにがなんでも夫=子どもの父親にはしっかりと毎日エサを持ち帰ってきてもらわなくてはなりません。そのためには男をつなぎとめる『なにか』が必要だった、そしてそれが人間独特のセックスだったかもしれない・・・と私は妄想しています」。
「霊長類の中でも人間だけが正常位をするといわれています。正常位は後背位に比べるとリスクが高い体勢です。後背位の場合、行為の最中に敵に襲われても、メスもオスもすぐにその場を逃げることができます。でも、正常位は逃げる体勢をとるまでに時間がかかってしまう。生態学的には適応的な姿勢とはいえない。こんな体位をあえて進化させたのも愛に溢れたセックスを人間が必要としたからではないかと私は想像しています。動物的本能を超える男女間の『愛』という絆によって一夫一妻の夫婦関係を強固なものとする。その愛情関係の確認のための行為としてのセックスが進化した。正常位という姿勢でお互いの顔を見合わせながら、その感情を読み取り、快感を通して愛を確かめ合う。そして無毛化したことにより、肌と肌を重ね、その肌触りと体温でいっそう、愛情を感じるようになった。実勢に人間の皮膚は極めて敏感で無数の性感帯を持っています(ただし、これは人によって差は大きいかも)」。一夫一妻の生殖システムをより強固なものにするために「愛のあるセックスが進化した」という著者の仮説に、妙に納得してしまった私。
●プリオン――。
「自分が生物学を研究していてウイルス以上に驚いた存在が狂牛病の原因となる『プリオン』です。ウイルスはDNAもしくはRNAといういわばわれわれ生物と共通の核酸物質を持っています。ですが、プリオンはただのタンパク質=アミノ酸なんです。つまり遺伝子はない。プリオン自体はわれわれ人間も含めてすべての動物の体内に存在し、特に脳組織に多量に存在するとされています。このもともと存在するプリオンは正常プリオンと呼ばれ、病気を引き起こすのはこの正常プリオンの立体構造が変化した異常プリオンになります。体内にこの異常プリオンが入り込むと、異常プリオンが正常プリオンの立体構造を改変して異常化するという反応が連鎖して、体内に異常プリオンが蓄積し、病気が発症するのです。現象だけを見れば、これはウイルスなどの病原体が感染して増殖することと同等のことを、このプリオンというタンパク質はやってのけていることになります。生物学での自己増殖とはDNAという遺伝子情報物質が鋳型となって、そのコピーを生産し続けることを意味します。プリオンは、コピーの鋳型がDNAでなくてもOK。鋳型はタンパク質なのです。プリオンを見れば、物質が物質をコピーして作っていくということが遺伝現象にもなりうるし、増殖する存在=生物的存在ともなりえます。プリオンは広い意味で生物といってもいいのかもしれません。しかし、現状のわれわれの生物学の定義からすると遺伝子を持っていないから生物ではない。プリオンを見ていると、DNAを基本とした生物の定義は、実際には意味をなさないとすら思えます」。私は、狂牛病を恐れるあまり、アメリカ産の牛肉は食べないことにしているので、プリオンには強い関心を抱いているのです。
●生物多様性――。
「日本の場合、本来の手付かずの自然環境は、ブナやタブノキなどの陰樹(光に対する要求性が比較的低い樹木)で構成される極相林に覆われ、暗い森になってしまい脆弱な人間が生活の場とするには、厳しい自然環境となります。生物多様性との共生で目指すものは手付かずの自然ではなく、人間が生きていける空間作りです。日本人は、古くから森を利用してきました。やがて森を加工し、水田や畑などの農耕地や居住のための開放空間を確保するようになり、その周りに自らの手で森を作り、奥山(自然林)雑木林、里地という異なる生態系がつながりを持つ里山を作り上げてきました。この生態系の空間的異質性がさまざまな動植物の生息空間を提供しました。人間自身はそれらの動植物が生産する資源や生態系機能を享受して生活を維持してきたのです」。私は里山が大好きで、雨が降らない限り、連日、野鳥を始めとする自然観察で里山を彷徨っています。