榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

1粒で3度美味しい、アンのような彩子と親友・ダイアナの成長物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2200)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年4月22日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2200)

カラスアゲハの雌(写真1、2)、ナガサキアゲハの雌(写真3、4)に出会いました。我が家の庭にアゲハチョウ(写真5)がやって来ました。ツバメ(写真6、7)をカメラに収めました。レンゲツツジの園芸品種、エクスバリー・アザレア(写真8、9)、モチツツジの園芸品種・ハナグルマ(写真10、11))、キンラン(写真12、13)が咲いています。

閑話休題、『本屋さんのダイアナ』(柚木麻子著、新潮社)は、1粒で3度美味しい小説です。

第1は、『赤毛のアン』シリーズ(ルーシー・モード・モンゴメリ著、村岡花子訳、新潮文庫、全10冊)との相似点を随所で愉しめること。

「差し出されたのは、初めて会った時に(作家の)はっとり(けいいち)先生に薦められた『アンの愛情』だった。巻末の方にふせんが貼ってある。だから、読んだことがあると言っているのに――。しぶしぶと開いてみて、ダイアナの目は釘付けになる。<この本のなかでは、アンにも親友のダイアナにも、いろいろな変化がおこります。アンが大学へ入学するのにたいして、ダイアナは静かに家庭にいて、娘としての教養を身につけます。したしい友が村をはなれて、新しい大学生活にはいっていっても、ダイアナは、それをさけられない現実として受けいれ、彼女は自分自身の道を進んでいきます。それでいながら、アンとの友情は、けっして変わることがありません。これが、ほんとうの友情というものではないでしょうか。人と人のあいだでは、相手が自分と同じ境遇にいるときは仲よくできても、相手が自分より高く飛躍すると、友情がこわれるというばあいがないではありません。わたしにはアンのなかにも、ダイアナのなかにも、学ぶべき点がたくさんあるように思えます>。<人生には、待つということがよくあるものです。自分の希望どおりにまっしぐらに進める人はもちろんしあわせだと思いますが、たとえ希望どおりに進めなくても、自分にあたえられた環境のなかでせいいっぱい努力すれば、道はおのずからひらかれるものです。こういう人たちは、順調なコースにのった人たちよりも、人間としての厚みも幅もますように、わたしには思えるのです>。一文一文が深いところにずしんと沈んで、滲みていくようだ。ダイアナがずっと欲していた言葉がこんなにそばにあるなんて。考えてみたこともなかった」。

第2は、若き女性たちの成長物語から、いろいろな学びが得られること。アンを思わせる優等生で美人の神崎彩子と、母子家庭育ちで内気な矢島ダイアナという仲良し小学3年生が、中学進学時のちょっとした誤解から絶交してしまい、22歳の時に再会するという物語展開の中で、それぞれが厚い殻を破り、変身していく過程が生き生きと描かれています。

「『ええと、何か、息抜きっていうか、気分が前向きになるような本、探してもらえないかな』。まかせて、とつぶやき、ダイアナは児童書のコーナーに彩子を誘う。迷うことなく『アンの愛情』を見つけ出し、差し出した。彩子は怪訝そうに首をひねる。『<赤毛のアン>が面白いのは<アンの青春>までなんじゃなかったっけ。ダイアナ、あの頃そう言ってたよね。恋愛や結婚がメインになって面白くないって』。本の話をするだけで、十年のブランクが埋まっていくのが、なんだか魔法みたいだった。ダイアナはわざと仕事用の口調を選んだ。『本当にいい少女小説は何度でも読み返せるんですよ、お客様。小さい頃でも大人になっても。何度だって違う楽しみ方ができるんですから』。優れた少女小説は大人になって読み返しても、やっぱり面白いのだ」。

第3は、本屋大好き人間のダイアナと本屋愛を共有できること。

「あの『隣々堂』は大好きな場所だったのに。本を買うお金がなくても、フロアを一周するだけで豊かな気持ちになれた。商品の並べ方に愛があったし、平台や棚をにぎやかに彩る手描きPOPのセンスが光っていた」。

「書店で働き始めてもう三年、今年から(アルバイトから)契約社員に昇格した。接客は今でもあまり得意ではないが、熱心に本をお薦めし必ず購入に結びつける姿勢が評価されている。最近では版元側がダイアナのPOPを気に入ってくれ、大量に印刷し、全国の書店に配布することが当たり前になっていた。店のブログとTwitterを任されているだけではなく、隣々堂恵比寿駅ビル店の名物書店員として、文芸誌や女性誌で新刊を紹介することも多々ある。名前が名前なだけに、実名でメディアに出るのがあまりにも恥ずかしく、田所店長に許しを得てアカウント名そのままに『ほんのむし』と名乗っていた。ダイアナ目当ての客は多く、いつしか店でつける名札にまで『ほんのむし』と表記されるようになった」。