榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

植物の香りに科学的にアプローチ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2263)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年6月23日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2263)

仏炎苞がさまざまな色合いのカラー(写真1~7)が咲き競っています。グラジオラス(写真8、9)、サフランモドキ(ゼフィランサス・カリナタ。写真10、11)が咲いています。

閑話休題、『かぐわしき植物たちの秘密――香りとヒトの科学』(田中修・丹治邦和著、山と渓谷社)は、植物の香りに科学的にアプローチしています。

●秋を代表する香りのダイエット効果に熱い視線!――キンモクセイ
「キンモクセイは、花粉をつくる雄花を咲かせる雄株と、種子をつくる雌花を咲かせる雌株が別々になっている植物であり、日本には雄株しか存在しません。そのため、私たちの身近にあるキンモクセイは、種子をつくることはありません」。

●永遠の美を世界中に知らしめたクレオパトラの秘薬とは――バラ
「バラには多くの品種がありますが、大きく3種類に分けられることがあります。1800年代に、バラに人工交配がはじまってから生まれたハイブリッドのバラを『モダンローズ』、それ以前から育てられていたバラを『オールドローズ』、自然に昔から生えていたバラが『ワイルドローズ』です」。

●あの甘い香りに含まれるのは『官能度マックス』成分――クチナシ
「『三大芳香花』はそれぞれの香りが漂う季節は異なっており、直接に、香りを嗅ぎ分けることはできません。でも、その香りの主な成分は、キンモクセイではガンマカラクトンとリナロールであり、ジンチョウゲではダフニンとリナロールであり、クチナシではリナロールと酢酸ベンジルということになります」。

●夜がふけるとますます発散。優雅すぎてコントロールされてしまった香り――ユリ
「日本が原産とされる代表的なユリは、その風格から『ユリの王様』といわれるヤマユリ(山百合)です。庭や歌壇で多く栽培され、切り花としても利用されるテッポウユリ(鉄砲百合)も日本原産とされるものです。そのほかに、日本にも自生していたユリの中にカノコユリ(鹿の子百合)があります。・・・これらの日本原産のユリを交配して、オランダで育成されたのが(『ユリの女王』といわれる)『カサブランカ』です」。

●そのかぐわしい香りからつけられた花名――ジンチョウゲ
「ジンチョウゲの香りは、高級な線香などの香りとして名高い沈香(東南アジア原産のジンチョウゲ科ジンコウ属の植物)に似ています。・・・沈香の木の一部に傷がつくと、そこに樹脂が沈着します。その樹脂を加熱すると香りを放ち、その質の違いで分類されます。特に高尚な香りのする高品質の香木は、『伽羅(キャラ)』とよばれます。『沈香』と『伽羅』の香りの違いは、高精度の分析装置で解析してもわからないため、ごくごく微量な分子が違いを生んでいると考えられています」。

●「カツラキャラメル」の商品化できる?――カツラ
「カツラの葉の甘い香りについては古くから知られており、この成分は『マルトール』という物質によるものであることが明らかになっています。この物質は『キャラメルのような香り』と表現されます。マルトールはキャラメルの成分ですから、キャラメルのような香りがするのは当たり前で、『キャラメルの香り』とうほうが正しい表現です。この香りは、緑の葉っぱからはほとんど香ってきません。また、晴天が続いていると、落ち葉はカラカラに乾いて水気を含んでいません。そのため、落ち葉からも香りはあまりしません。ところが雨が降ると、たっぷり水を吸った落ち葉から、キャラメルの香りがかすかに漂ってきます」。

●葉っぱも実も、高く香って消化を助ける――サンショウ
「葉だけでなく、果実にも香りがあります。そのため。サンショウの実はちりめんサンショウ、七味唐辛子また親子丼などにも使われています。また、うなぎの蒲焼や名古屋の名産『ひつまぶし』では、サンショウの実を添えて料理の香りと味を引き立てています。サンショウの葉や果実の香りには、レモンなどに含まれているリモネン、ゼラニウムやバラに含まれる酢酸ゲラニルとゲラニオール、また、柑橘類の香りシトロネラールが含まれています。特に香り高い品種として、飛騨の高山で取れるヒダサンショウが知られており、収穫から1年たっても香りが衰えないといわれます。その理由としてタチバナに含まれている『フェランドレン』という香り成分が多いことがわかっています」。

●リラックス効果をもたらすのはリモネン。「認知機能を回復させる」と噂の成分も――ユズ
「ユズの香りを使った最近の研究結果から、ユズの『香り』には『ストレスを緩和する効果』があることもわかりました。2014年に、京都大学と四天王寺大学との共同研究の結果が発表されました。ストレスを感じると唾液中で増加する『クロモグラニンA』という物質の量を測って、ユズの香りがストレスを緩和する効果が調べられたのです。・・・その結果、ユズの香りを(10分間)嗅いだ直後に、唾液中のクロモグラニンAの値が、嗅ぐ前の8割程度にまで低下していることがわかりました。これはユズの香りを嗅ぐことでストレスが和らいだ結果だと解釈できます。一方、比較としてユズの香りが含まれていない液のグループでは、逆にクロモグラニンAの値が嗅ぐ前の1.2倍に増えていました」。

本書のおかげで、香りだけでなく、植物に関する知識をいろいろ増やすことができました。