榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

日本産トンボ全204種を網羅した本格的・専門的図鑑・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2307)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年8月6日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2307)

キアゲハ(写真1~3)をカメラに収めました。ハツユキソウ(写真4~7)、オクラ(写真8)、スベリヒユとマツバボタンを交配させた園芸品種・ハナスベリヒユ(ポーチュラカ。写真9)が咲いています。トウモロコシ‘ハニーバンタム’が育っています。

閑話休題、自然観察会の仲間で昆虫に造詣の深いSさんに薦められた『ネイチャーガイド 日本のトンボ(改訂版』(尾園暁・川島逸郎・ニ橋亮著、文一総合出版)を購入しました。

2020年までに記録のある日本産トンボ全204種について、鮮明な写真に詳細な解説が付されています。

著者らは、本書の特色を挙げています。①日本に生息または記録のあるすべての種を網羅し、②種ごとに鮮明な生態写真を揃えて行動生態上の特徴を分かりやすく示すとともに、③種の同定に役立つように標本写真に加えて尾部付属器や副性器などの的確な線画を掲載し、④系統分類や種の配列にあたっては最新の知見を盛り込み、⑤国内における生息状況が一目で分かる詳細な分布図を作成し、⑥幼虫についても可能な限り写真を収録し、⑦野外にもち運び可能なサイズにまとめる――の7つです。

著者らが胸を張るだけあって、写真は詳細で、解説は本格的かつ専門的です。♂、♀だけでなく、未成熟個体の写真も並べて掲載されているので、今後は同定に迷うケースを減らせるかもしれません。「トンボの各科の色と大きさの検索表」も同定に役立つことでしょう。ただ、特色の⑦については、重さが730gもあるので、野外観察時の携帯は難しいと思われます。

アキアカネの減少について記されています。「かつて、秋ともなれば何千、何万とみられたアキアカネは、1990年代後半から、全国各地で激減している。その原因として最近有力紙されているのが、稲作において、イネ苗といっしょに水田に埋め込まれる箱処理剤である。箱処理剤の代表的な農薬である『イミダクロプリド』は1993年、『フィプロニル』は1996年から全国に出荷されているが、これらはアキアカネ幼虫の致死率を上げることが実験によって確認され、特にフィプロニルを使用した場合に、致命的な影響を及ぼすことが報告されている。実際、北陸地方におけるアキアカネやノシメトンボの確認個体数の変化(減少)は、フィプロニルの出荷量と年代的な相関がみられる。なお、地域によっては、水田の中干し時期の変化といった複数の要因もまた、減少の原因として考えられている」。

ヤンマの「黄昏飛翔」は、こう説明されています。「ギンヤンマを中心としたヤンマ科、エゾトンボ科、ヤマトンボ科の多くの種、さらにムカシトンボは、早朝や夕方に、活発に摂食飛翔する。これは『黄昏飛翔』として古くから知られており、かつては全国各地で、ヤンマの群飛が観られたといわれている。慣れれば、飛び方やシルエットだけでも種の判別がほぼ可能になる」。

かねがね、未成熟な♂が成熟♀と同じような体色をしているのはなぜかという疑問を感じていたが、「成虫の体色が成熟に伴い大きく変化する種では、基本的に未成熟な♂は♀と似た体色をもち、♀に交じって餌をとっていることが多い。トンボの体色多型や成熟に伴う体色変化は、行動と密接に結びついており、生態学の研究を行う上で格好の材料である」と説明されて、納得することができました。また、♂そっくりの体色を有する♂型♀が存在することについては、こう説明されています。「♂と♀で体色が異なる種でも、時おり♂そっくりの模様をもつ♂型の♀が現れることが多くの種で知られている。♂型♀は、♂に似せることで産卵しているときの♂からの干渉を避ける効果があると一般的に考えられているが、特に不均翅亜目では研究例が少ない。シオカラトンボの♀は成熟しても通常は麦わら色のままだが、♂型の♀が低い割合で出現する」。