居ながらにして、京の路地裏の植物たちに出合える本・・・【情熱的読書人間のないしょ話(105)】
散策コースの中ほどにあるクスノキの大木は、風通しのよい木陰を作っているので、夏日の休憩場所として恰好です。我が家の真ん前が小学校なので、散策時、登校・下校する子供たちとよく行き合います。無邪気にはしゃぎ回る男女の脇から、「自分を犠牲にしても、みんなのために頑張る・・・」という男の子同士の会話が聞こえてきた時はびっくりしました。因みに、本日の歩数は10,214でした。
閑話休題、『京の路地裏植物園』(田中徹著、淡交社)は、居ながらにして、京の路地裏の植物たちに出合える本です。「碁盤の目のように縦横にめぐらされた京都の狭い路地は、外部の者にとっては閉鎖的で、ともすれば足早に通り過ぎるのが常であった。しかし『通り』を一つ違えば、どんな植物と出合えるか予想もつかないスリリングな空間でもある。路地裏歩きはしばらくやめられそうもない」。
京都の狭い路地に一歩足を踏み入れれば、さまざまな個性豊かな植物に出合うことができますよと、春、夏、秋、冬に分けて、84種の路地裏の植物がカラー写真で紹介されています。写真だけでなく、説明文がこれまた味わい深いのです。
「夏の路地裏は静かである。人通りも少ない。イジュ・ベニゴウカン・ジャカランダなどの熱帯花木も大きく育っている。こんな光景はかつてはめずらしかったであろうと思われる。西本願寺東南角に植えられたインドボダイジュも天気である」。以前、京都の路地裏をあちこち歩き回ったことを懐かしく思い出してしまいました。
「キンシバイ(オトギリソウ科)――厳しい路地裏の世界」は、こう説明されています。「路地裏でキンシバイを見る機会が少なくなった。・・・茶花として、また寺院の境内などには今なお健在だが、路地裏では他の近縁種にその場を奪われ、姿を消しつつある。・・・路地裏での淘汰はスピードが速く、自然界にもまして厳しい世界といえるかもしれない。元祖キンシバイは渓流を臨む岩上などに野生化するため、もともと日本に自生があったのではないかと考える人もいる。京都市内の貴船川では料理旅館街の石組みに多く植えられているためか、奥貴船の上流域アソガ谷にまで野生化がおよんでいる。長さ1ミリ足らずの細かい種子が風に乗って溪谷をさかのぼるのであろうか」。
「シラサギガヤツリ(カヤツリグサ科)――常識破りの受粉」は、「暑い季節に涼しげな姿を見せてくれるシラサギガヤツリ。その人気は一時的なものにとどまらず、今や路地裏の定番となっている。白くて長い総苞が垂れ下がり、あたかもシラサギが舞うような風情があるところから、『シラサギノマイ』の名もある」と綴られています。
「逸出(いっしゅつ)野生化=栽培植物が野外に逸脱して野生化すること」、「隔離遺存=大陸移動、気候変動などで地理的に隔離され、それぞれ別の場所に残存すること」、「夏緑(かりょく)性=地上部が春から秋まで生存するタイプの植物」、「矮性種=基本種よりも小型なまま成熟する種類のこと」、「液質=果汁の多い果実の状態」、「実生(みしょう)=種子から芽生え、生育した植物のこと」、「塊茎=地下茎のうち、塊状または球状に肥大した部分」、「洋種山草=外国産の山野草。おもに種子から殖やしたもの」、「危急種=レッドリストで、絶滅の危険性が高いとされている種」、「腐生(ふせい)植物=光合成をせず、菌類と共生して栄養を得る植物」といった用語解説も勉強になりました。