榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

手紙とツイッターの投稿を通じて山上徹也の心情に迫ろうという試み・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3052)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年8月26日号】 山上徹也と日本の「失われた30年」

ガウラ(ヤマモモソウ、ハクチョウソウ。写真1、2)、シラサギカヤツリ(写真3、4)が咲いています。

閑話休題、『山上徹也と日本の「失われた30年」』(五野井郁夫・池田香代子著、集英社インターナショナル)は、手紙とツイッター(現・X)の投稿を通じて山上徹也の心情に迫ろうという試みです。

「ひとりの青年が、数十年にわたってその存在を政治と宗教に翻弄されたがゆえに、人としての尊厳を保つ限界を感じたときに辿り着いてしまったありようを、現代日本の肖像として探求してみたいと思う」。

「2022年7月8日、カルト宗教に家庭を破壊されて下流に落ちた人生と、祖父の代から権力維持のためにカルト宗教を利用してきた上流の人生、このふたつの人生が、奈良西大寺の駅裏の、殺風景な空間で交差した。前者は母のカルト宗教への入信によって、後者はカルト教祖と手を組んだ祖父からの導きによって、あの日、二人はたしかに歴史の一齣の主要登場人物となったのだった」。

<オレが憎むのは統一教会だけだ。結果として安倍政権に何があってもオレの知った事ではない>(2019年10月14日)。

<親に騙され、学歴と全財産を失い、恋人に捨てられ、彷徨い続け幾星霜>(2019年10月23日)。

<最も救いがないのは、母を殺そうとした祖父が正しい事だ。オレは母を信じたかった。それ故に兄と妹とオレ自身を地獄に落としたと言われても仕方がない>(2019年12月7日)。

<オレが14歳の時、家族は破綻を迎えた。統一教会の本分は、家族に家族から窃盗・横領・特殊詐欺で巻き上げさせたアガリを全て上納させることだ。70を超えてバブル崩壊に苦しむ祖父は母に怒り狂った、いや絶望したと言う方が正しい。包丁を持ち出したのもその時だ>(2020年1月26日)。

<祖父はオレ達兄妹を集め、涙ながらに土下座した。自分の育て方が悪かった、父と結婚させた事が謝りだった、本当に済まないと>(2020年1月26日)。

<混乱し誤魔化し続けた現実のまま、あの日祖父は心臓発作で亡くなった。これまで祖父の目を盗んで金を統一教会に流していた母を咎める者はもういない。全てを手にした母は、韓国人が選民と信じる者にしか存在しない対価と引き換えに全てを引き渡し、そして言った。「祖父の会社に負債があった」と>(2020年1月26日)。

<安保闘争、後の大学紛争、今では考えられないような事を当時は右も左もやっていた。その中で右に利用価値があるというだけで岸が招き入れたのが統一教会。岸を信奉し新冷戦の枠組みを作った(言い過ぎか)安倍が無法のDNAを受け継いでいても驚きはしない>(2021年2月26日)。

<この国の政府が人民の幸福の為に存在した事は有史以来一度もない。明治においては列強に劣らない強国になるため、戦後においてはより強者だったアメリカの制度に順応するため。より強い者に従うために作られた政府がより弱者である人民の為に働く事を自ら理解する事は無い>(2021年7月5日)。

<人間なんてこんなものだと最近ヒシヒシと感じる。世界を支配するのはデタラメ、表層しか見ない無関心とそれに基づいた感情、最後まで生き残るのは搾取上手と恥知らず>(2021年12月8日)。

<在日差別を「ヘイトスピーチ反対:と言って解決しようとすればするほど背後にある問題、韓国の挑発的な対日政策、日韓関係の悪化、北朝鮮・総連・拉致問題、米中冷戦、慰安婦から徴用工まで、戦後から現代に渡る巨大な問題体系を「差別」の一言で一方的に誘導する事になる>(2021年12月28日)。

<母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産・・・この経過と共に私の10代は過ぎ去りました。その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言って過言ではありません>(2022年7月7日)。

自分が山上の立場に置かれたら、どう行動しただろうか――重い思いが残る一冊です。