榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

翻訳家たちとの読書を巡る対談に、大きく頷いてしまいました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2396)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2396)

我が家の庭では、マンリョウ(写真1)、センリョウ(写真2、3)、ナンテン(写真4)、バラ(写真5)、オモト(写真6)が実を付けています。ナツツバキ(写真7)が紅葉しています。

閑話休題、『私が本からもらったもの――翻訳者の読書論』(駒井稔編著、書肆侃侃房)は、翻訳家8人と編者の読書を巡る対談集です。とりわけ印象深いのは、貝澤哉、永田千奈、土屋京子との対談です。

●貝澤哉(ロシア文学)――
「もし本がなくなったらどうしたらいいんだろう、と思うとぞっとしますね。いかに面白い本をみつけてこられるか、それで『あ、これってこうなんだ』って新しい世界が分かる。それがないと逆に『なんでこんなダメな本を読んじゃったんだろう』って悔しくなる。そういうことをずっとやっていて、だから鞄にも必ず読むものを入れていて、例えば海外出張に行くとトランジットで5時間とか空港で待たされる。そうなると、もう『しめた!』となって夢中で読む。極端なことを言うと、本はやっぱり自分を変えてくれるものじゃないと意味がない。そういうことが体感として分かっちゃった人にはやめられなくなってしまう。もう、病みつきですよね」。

●永田千奈(フランス文学)――
「年齢によって読む本は変わりますね。同じ本を読んでも感じるものは違います。若い頃は主人公にすぐ目がいってあらすじの起伏ばかりを追いかけていたんですけど、歳をとってくるとあらすじよりも描写の細やかさが見えたり、脇役の登場人物が魅力的に見えてきて、モーパッサンの『女の一生』を訳したときも思ったんですけど、主人公のジャンヌだけを見ているとすごく可哀相な物語に思えるんですけど、もうちょっと俯瞰する形でお母さんとかお父さんとか、優しい妻を敵藍するあまり常軌を逸した行動に出るフルヴィル伯爵ですとか脇役がとても魅力的で、そういう群像劇のような楽しみ方というのは歳をとったからできるようになったと思いますね。それから、歳をとってやっぱり気になるのは、老いや病に関するテーマ。重たすぎて今まで避けていたようなテーマもやっぱり身に迫ってくるんです。例えばボーヴォワールは『第二の性』がフェミニズムの古典として引用されることが多いですけど、『おだやかな死』なんかを読むとやっぱりものすごく繊細なところのあった人だというのがわかる」。

●土屋京子(英米文学)――
「辞書っていうのは本当に面白いんです。当たり前だけど何でも書いてある。今の私を作ってくれた本が辞書であると思っているんです。英和辞書は引くと、英語の例文とそれを訳した日本語の文章が書いてあるわけですね。それを比較しながら読むのがすごく好きだったんですよ。例えば『taste』は日本語で言えば『テイスト』ですけど、味とか趣味という意味の言葉ですね。辞書で引くと『Tastes differ.』とかそういう言葉が出てくる。『Tastes differ.』って『好みは人それぞれだ』という意味なんですけど、それが辞書でどんな日本語になっているかというと『蓼食う虫も好き好き』とか『十人十色』。すごい落差でしょう」。

翻訳家という特殊技能者も、私のような普通の読者と同じような読書観を持っていることが分かり、なぜかホッとしました。