榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

文化人類学者のアフリカ歴史漫歩に付き合おう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2406)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月18日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2406)

スズメ(写真1~3)をカメラに収めました。キク(写真4)が咲いています。イチョウが黄葉、モミジバフウが紅葉しています(写真5)。

閑話休題、『サバンナの手帖』(川田順造著、講談社学術文庫)の著者、文化人類学者の川田順造は、本書アフリカ歴史漫歩に付き合って楽しんでほしいと述べています。

●はれやかな女たち――
「三日ごとに立つ市での、女達のはれやかでいきいきしていること! このサバンナの社会で、市という空間、とくに女性の領域では、日常生活空間での男性上位の構造は解体されている。売る方は勿論、買手として市に来る女性も、精一杯のおしゃれをしてくる。いまでも地方の市では、腰に布を巻いただけで上半身は裸の女性が多いが、彼女らはかえって、装身ということの原初のありようを『身をもって』示してくれている。市へ行く前には、まずからだを入念に洗い、野生樹カリテの種子からとる植物油を全身に塗る。とっておきの耳飾り、首飾り、腕輪をつける。近くのロビ族なら、上下の唇にあけた穴に、骨でつくった円盤形の唇栓をはめる。唇が水鳥の平たいくちばしのようになる。若い娘なら、姉妹や近所の娘に、やはりカリテの油をつけて髪を編み直してもらう」。

●対照的なウマとロバ――
「車輪がとりいれられなかったこのサバンナで、ウマが空間を迅速に結ぶコミュニケーションの手段として、いやむしろそれ以上に威圧の手段、威信誇示の手段として、王侯貴人に特権的に用いられたことは、これまでに見たとおりだ。ところで、アフリカに古くからいたロバは、同じウマ科の動物でありながら、サバンナの社会でウマとは対照的な地位を与えられてきた。ウマが貴人を乗せるだけで、荷物を運ばされることは決してなかったのにひきかえ、ロバは人も乗せたし、背骨が折れるほどの荷を積んで何百キロという道のりを歩かされもした。サバンナを縦横に旅したワンガラ商人は、商品を運ぶのに奴隷も用いたが、布やコーラの実の交易は、何十頭何百頭というロバのキャラバンでおこなった。飾り立てられたウマとは反対に、ロバは、場合によって木の枝の荷台やヤシの葉で編んだ籠を荷を積むためにつけられることはあっても、装具らしいものは一切なく、木の枝で血がにじむほどたたかれながら、黙々と歩かされた。ウマとロバのこの対照は、文化の他の側面にもおよんでいる」。

●「よそおう」ことの二面性――
「黒人アフリカではいれずみも一部にあるが、一般に人の皮膚が黒いため、とくに発達しているのが瘢痕だ。まず幼いころ顔面に切り傷としてつける、部族や、部族の中での氏族や身分を示すしるしがある。ひたい、目尻、頬、口の両端、あごなどに、部族や身分によって形や数が一定している線をきざみつける。これは一生消えることのない、自己同定のしるしだ。女性にはとくに、成熟してから、乳房、へそのまわりなどに、主として美容の目的で、かなり手のこんだ瘢痕模様をつける者が多い。同様に世界の多くの社会で行われてきた尖歯や抜歯は、西アフリカでは個人的なおしゃれの意味でなされる。成人式、入社式における性器の変工も、世界にひろく行われてきた。男子の割礼、陰茎の上部や下部切開、女子の陰核切除、陰唇縫合等々さまざまな方式があるが、西アフリカにみられるのは割礼と陰核切除だ。男性は性器から血を流すことによって両性具有を夢み、女性は陰核をとり去られることによって、脱男性化を完成しようとするのであろうか? ともあれこれもまた、『よそおい』による、生まれつきの自己からの、性の面での異化の一形式だ。右に見た、身体の一部に直接手を加える『よそおい』は、二つの主要な意味をもっている――生まれたままの姿を人工的に『異化する』ことによって、人間をけものから、あるいは『自然』から区別し、同時に人間の中でのある範疇に、個人を『同化する』こと(それは他の範疇からの『異化』によって可能になる)。個人は、さまざまに交錯する社会的範疇の中に、これらの『よそおい』を通じて自分を位置づけ、そのことによって、同時に個人としてのアイデンティティを獲得しようとする。だが、それははたして『個』を確立することを意味するだろうか?」。