女坑夫からの聞き書き集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2419)】
東京・文京の小石川後楽園で紅葉を堪能しました。キブシ(写真15)が冬芽を付けています。キブシの冬芽を撮影中の素敵な女性2人組と会話が弾み、「友達」になるという、いい出会いに恵まれました。因みに、本日の歩数は11,738でした。
閑話休題、『まっくら――女坑夫からの聞き書き』(森崎和江著、岩波文庫)は、坑内労働を経験した老女11人からの聞き書き集です。かつての坑内の実態が、いいことも悪いことも、本音で語られています。
「けどな、坑内にはいって仕事するときは、たいがいマブベコ(坑内ベコ)いっちょ。あつうして、着ておれん。そんなにしてみんなといっしょに仕事をしよるときはいいけど、たった一人のこって仕事をしてみなっせ。ふかいふかい土の底ばい。だりっ、だりっ、だりだりっ、ぴちぴちっ、ぴちぴちっ、ぱらあっ、と、どっかがしょっちゅう荷(天井にかかる圧力)の音をさせよる。そこらじゅう、しいんとしとるからなぁ。スラに石を積んで坑内の函(炭車)置場まではこびおろすじゃろ。函に石を移して、こんどは空になったスラにたすきをかけて四つんばいになって切羽まであがらんならん。その重さね。濡れしとった木箱を引きずって梯子をのぼるようなもんじゃけ、肩があかくなって皮が破れて紐がくいこんでな。這いのぼるじぶんの音ばっかりじゃ。水もどこやらでぴちんぴちんいうて。だあれもおりゃせん。さみしいとこたい」。
「十五、六からはたちの娘さんがようけいて、先山さん(=男坑夫)の後向きになって坑内に入るとですよ。朝坑口で娘たちは、じぶんの好きなひとのところに飛んでいくとですよ。わあわあいって坑内に入って、いよいよ仕事となると女のほうが能率が上りよった。女のほうが我がつよい、そして慾っぽうですね。それで仕事もがむしゃらにするとですけど、炭坑ちゃ案外たすけあうですが。競争のごとして函に積んで、それでも人の世話ばようしてですの」。
「リンチは間男したもんもひどかった。裸仕事じゃ、いい話はありよったの。どこやらのかかを押さえた、ち。若かもんも娘もおるしの。恋愛は多か。パイプとおしにいきゃぬくいからの。『よさそうなところは人がおるし、人のよう行かんところは落ちてくるのがこわいし』いう話がありよったよ。ふつう使わんごたるところから二人連れがでるとばみかけよったね。切羽はめおとで入るばかりじゃなか。他人の後山(=女坑夫)になることが多かけん。亭主がぐずぐずいや、男とつんのうて(連れだって)逃げるの。こまか払い(切羽)はたったふたりじゃけ、大納屋の若かもんとよそのかあちゃんと逃げるとたい。わからんごとしめし合うとっての。あたしがたの若かもんとおまつさんが逃げたな。まつさんな釜に米をしこうでの火にかけて、とうちゃんがおるときに出たとばい。ご飯を炊きもておらんけん、買物にでたとじゃろと思うとったげな。暗うなるまでそげん心配ちゃせじゃった。次の日になって大納屋のもんがひとりおらん、それじゃ一緒にでたんばい、とあとからさわぐようなもんじゃった。本気になっとるもんはふつうわからんごと気をつけとるけんの。坑内でおなごが男のいうなりにならんばいかんということはなかった。そればってん、ふたりして――若かもんどうしならよかけど、よそのかあちゃんと逃げよるのがみつかりゃひどか。男もおなごも裸にして後手にしばっての、さんばしに吊るすとばい。『こげなもんのあるけん罰ばかぶる』と青竹で男んとばたたく、おなごば突きさしての、気絶させてしまうの。ばってんおなごのとうちゃんがゆるす時は男だけたたいてヤマを追いだすと。おなごがいっしょにいくときもありゃ残ることもあるたい。あたしゃそげなリンチは見きらんじゃったね」。
「まあ奴隷じゃな昔は。資本家いうたらほんにひどいもんばい。・・・生き地獄じゃった。そんころの坑内は道のない谷底を歩くようなもんばい。天井がそれにおっかぶさっとる。ごたいひとつ守るとがやっとちゅう地の底から炭を出したとたい。昼の二時ごろ入って、あがるとき上をみりゃあ、夜が明けとる・・・」。
方言を聞いたまま書き記しているので、どの話も臨場感がひしひしと伝わってきます。
個人的なことだが、九州で16年過ごしたおかげで、方言を全て理解できましたばい。