榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

専務が人間ドックに入院中に、専務を降格させる緊急重役会が秘かに開かれた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2456)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年1月7日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2456)

まだ雪が消えずに残っている我が家の庭の餌台に、メジロ(写真1~5)、シジュウカラ(写真6~9)、スズメ(写真10~12)たちが入れ替わり立ち替わりやって来ます。

閑話休題、企業小説の短篇集『緊急重役会』(城山三郎著、文春文庫)に収められている『緊急重役会』を久しぶりに再読しました。企業にあって激しい権力闘争を繰り返していた往時が生々しく甦ってきて、血が騒ぐのを覚えました。

次期社長の最有力候補と見做されている専務の恩地信幸が人間ドックに入院中、恩地を専務から平取締役に降格する緊急重役会が秘かに開かれます。虚々実々の策謀が渦巻く組織の実態、そして生臭い人間関係が暴かれていきます。さすが城山三郎、時代背景は多少古くとも、その臨場感を伝える筆致は迫力があります。

入院中の恩地に、小さな業界新聞をやっている山村から電話がかかってきます。「『専務。これまではあんたの次期社長説が通り相場だった。ところで通り相場ほどあてにならぬものはない。筧常務はじめ銀行派の連中は、金をバックにやりまくっていたからね。専務だって、うすうすそれに気づいていながら、潔癖過ぎたね。いや相場を信用し過ぎたんだ。それに清瀬社長。あのじいさん、口はうまいが、仲々、欲も深い。社長を退いたら、会長に納まりたい。ところが、会長職を置くかどうかは、いまの情勢ではN銀の鼻息ひとつにかかっている。わが身が可愛ければ、自分の後釜には、N銀派の常務をと計算する。たとえ、社の内外から批判が出るとしても、そんなことより、眼の先の栄達や保身を誰でも考える。幸い、あんたは病院だ。そこで、この緊急重役会というわけだ』」。

「いつか、こうした罠にはめこまれる気がしないでもなかった。だが、これほど辛抱強く、そして、善意に装われて仕掛けられようとは。しかし後になって知ったのだが、罠はまだまだ奥深く、恩地を二重にくわえこもうと、口をあけて待っていたのだ」。