大韓航空機撃墜事件の2つの謎を解明した柳田邦男・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2525)】
トサミズキ(写真1、2)、ヒュウガミズキ(写真3、4)、サンシュユ(写真5~7)、ウメ(写真8~10)が咲いています。アオジの雄(写真11)、コゲラ(写真12)をカメラに収めました。我が家の庭の片隅で、キズイセン(写真13、14)が咲いています。
閑話休題、『撃墜――大韓航空機事件』(柳田邦男著、講談社文庫、上・中・下)は、日本ジャーナリズム界に聳え立つ金字塔です。
アメリカとソ連の二大強国が緊張感を持って対峙していた冷戦時代の1983年9月1日、大韓航空のボーイング747がソ連の領空を侵犯したため、ソ連防空軍の戦闘機によって撃墜され269人が死亡するという大韓航空機撃墜事件が起こりました。この死亡者には日本人乗客28人が含まれていました。この時、アメリカの大統領はロナルド・レーガン、ソ連の書記長はユーリ・アンドロポフ、日本の首相は中曽根康弘、官房長官は後藤田正晴でした。
この事件には2つの謎がありました。1つは、なぜ、大韓航空007便は、正規のジェット・ルート「R20」から数百キロも外れたサハリンに飛んでいったのか、もう1つは、なぜ、ソ連は民間機である007便を撃墜してしまったのかです。ソ連は大韓航空機がスパイ活動をしていたと主張し、アメリカや日本はその主張に反論したものの、防空レヴェルが白日の下に曝されることを恐れ手の内を明かしませんでした。
こういう状況の中で、柳田邦男は取材、調査、推考を積み重ねて、遂に、謎の解明に辿り着いたのです。本書は、この過程を克明に記した息詰まるドキュメントです。
柳田が達した結論は、このようなものです。
●大韓航空機は、スパイ活動をしていたのではなく、機長の航法ミスによりソ連の領空に迷い込んでしまった。なお、信頼性の極めて高いINS(慣性航法装置)を備えたジャンボ・ジェットでも、こういうミスが起こり得るということに、柳田は警報を鳴らしている。
●ソ連防空軍が、カムチャッカ半島上空に迷い込んできた大韓航空機の発見に失敗し、サハリン上空まで入り込ませてしまったことに慌てて、撃墜してしまった。この背景には、ソ連では、ソ連領空を犯した外国機は撃墜せよという「ソ連国境法」の存在があったと指摘している。
ジャーナリストのみならず、ジャーナリズムに関心を持つ者にとっても、間違いなく必読の書です。