榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

結婚6年にして病没した夫を、須賀敦子が心底愛していたことが伝わってきます・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2533)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年3月25日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2533)

ソメイヨシノ(写真1~4)、コヒガン(写真5、6)、ヨウコウ(写真7、8)、オオシマザクラ(写真9)、ハナモモ(写真10~13)が咲いています。キタキチョウ(写真14)をカメラに収めました。

閑話休題、エッセイ集『トリエステの坂道』(須賀敦子著、新潮文庫)に収められている『トリエステの坂道』は、須賀敦子が強く惹かれる詩人サバが愛したイタリアのトリエステを訪れた時のことが綴られています。

「サバが愛したトリエステ。重なりあい、うねってつづく旧市街の黒いスレート屋根の上に、淡い色の空がひろがり、その向うにアドリア海があった」。

「たとえどんな遠い道のりでも、乗物にはたよらないで、歩こう。それがその日、自分に課していた少ないルールのひとつだった。サバがいつも歩いていたように、私もただ歩いてみたい」。

「なぜ自分はこんなにながいあいだ、サバにこだわりつづけているのか。二十年まえの六月の夜、息をひきとった夫の記憶を、彼といっしょに読んだこの詩人にいまもまだ重ねようとしているのか。イタリアにとっては文化的にも地理のうえからも、まぎれもない辺境の町であるトリエステまで来たのも、サバをもっと知りたい一念からだと自分にいい聞かせながらも、いっぽうでは、そんな自分をこころもとなく思っている」。

結婚6年にして、41歳で病没した夫ジュゼッペ(ペッピーノ)・リッカを、須賀が心底愛していたことが伝わってきます。自分が深く愛した夫が好んだ詩人の縁(ゆかり)の地を訪ねる――須賀の思いに心を揺さぶられました。