720通りの読み方ができる『N』だが、1通りの読み方しかしていない私でも十分愉しむことができました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2583)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年5月14日号】
情熱的読書人間のないしょ話(2583)
あちこちで、ニオイバンマツリ(写真1~5)が芳香を放っています。咲き始めの花は紫色だが、やがて白色に変わっていきます。シャリンバイ(写真6)、ヒメウツギ(写真7)が咲いています。
閑話休題、連作小説『N(エヌ)』(道尾秀介著、集英社)は、収められた6章の読む順番を変えることで720通りの物語が生まれるという凝った作りになっています。
私は、「名のない毒液と花」(「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師)→「落ちない魔球と鳥」(「死んでくれない?」。鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生)→「笑わない少女の死」(定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人)→「飛べない雄蜂の嘘」(殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者)→「消えない硝子の星」(ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師)→「眠らない刑事と犬」(殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事)――という1通りの読み方しかしていないが、十分愉しむことができました。
ある章に登場した脇役が、別の章では主役として登場するというのは、連作小説でしばしば見られる手法だが、本作品はそれだけに止まらず、いずれの章でも死が描かれ、各章に共通の生物や自然現象が現れるという徹底ぶりです。そして特筆すべきは、どの章にも、読み手をほろりとさせる隠し味が仕込まれていることです。
できれば、720通りとはいかないまでも、12通りぐらいの読み方はしてみたいと考えているが、私の人生の残された持ち時間から判断すると、ちょっと無理のようです。