榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

悪魔に自分の手相を売ってしまった大学生に起こったこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2603)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月2日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2603)

あちこちで、アオイトトンボ(写真1~6)を見かけました。伐採された木の置き場(写真7)では、20匹ほどのアオイトトンボが飛び交っています。サトキマダラヒカゲ(写真8)、ダイミョウセセリ(写真9)、チャバネセセリ(写真10)、ルリシジミの雄(写真11)をカメラに収めました。アメリカオニアザミ(写真12)が咲いています。我が家のキッチンの曇りガラスに貼り付いたニホンヤモリ(写真15)が獲物を追って動き回っています。因みに、本日の歩数は11,830でした。

閑話休題、『おいしい命――阿刀田高傑作短編集』(阿刀田高著、集英社文庫)に収められている『掌(てのひら)の哲学』は、何とも不思議な作品です。

「あの特徴のある姿が・・・黒いコートの下に長い尻尾を隠し、尻尾の先端に三角の突起がついている(悪魔の)姿が目撃されたのは、私の知る限りでは、昭和四十一年秋のこと、東京都千代田区、皇居に近い路地の一郭・・・。ローマ法王庁に報告すべきかどうか私は迷い続けている。ここにあえて報告する所以である。とはいえ私自身はほんの瞥見をしただけである。確かに見たと言うのは大学生のK・・・君である」。

そのころフランスから帰国し、都内の私立大学で教鞭を執りながら翻訳の仕事に励んでいた私に、教え子の学生が、「先生、助けてください、悪魔に遭いました。悪魔と取引きをしてしまいました」と助けを求めてきたのです、

「『うしろから来た男に呼ばれて・・・借金取りかと思ったけど、ちがいました』。『うん?』。『黒ずくめの男で・・・。私、グデングデンに酔ってましたけど、へんなことを言うんです』。『なんて?』。『あのう、あんた、いい手相をしている。<譲ってくれ>って』。『手相を譲ってくれって言ったのね?』。『はい。なんのことか、よくわかりませんでした。その男が言うには<さっき酒場で見た。チャーミングだから譲ってくれ。お礼に二十万円、どう>って』。『ふうん』。『二十万円あればずいぶん助かるなって思ったのはよく覚えています』。今よりはずっと物価の安かった頃のことだ。『それで君はその取引きに応じたわけだ?』。『そうです』。Kはブルッと身震いをした。思い出しても恐ろしいことがあったらしい」。

何ということでしょう。Kの両手から手相が消え、掌がノッペラボウになってしまったのです。「怖い・・・つまり昨夜の出来事がまぎれもない事実だったということ。黒い男がただものではなかったということ。多分、悪魔のようなもの・・・。そう言えば、うしろ姿になったとき、半コートのすそから紐のようなものが垂れていたのではなかったか。あのときは酔っていて気づかなかったけど、――あれは尻尾?――そうでなかった、とは言いきれない。いや、確かに尻尾だった。だとすれば、――本当にいるんだ――悪魔が・・・。なんと、それと取引きをしてしまったんだ」。

最後に意外な結末が、それも実存主義的な結末が待ち構えていようとは!