榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

無作為化対照二重盲検試験とペニシリン発見が人類にもたらしたもの・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2614)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月13日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2614)

サラサヤンマ(写真1~5)の産卵を間近で目撃することができました。ショウジョウトンボの雄(写真6、7)、アオモンイトトンボ(写真8~11)をカメラに収めました。アオモンイトトンボの雌には、褐色のタイプと、雄と同じような体色・斑紋を持つタイプの2型があるが、後者のタイプの雌(写真10、11)が産卵しています。テングチョウ(写真12~14)に出くわしました。因みに、本日の歩数は11,043でした。

閑話休題、『EXTRA LIFE(エクストラライフ)――なぜ100年間で寿命が54年も延びたのか』(スティーヴン・ジョンソン著、大田直子訳、朝日新聞出版)で、とりわけ興味深いのは、「無作為化対照二重盲検試験」と「世界を変えるカビを大量生産する方法」です。

●無作為化対照二重盲検試験
「1937年には、FDA(アメリカ食品医薬品局)は効能の証拠を合理的に求めることができなかった。なぜなら実験医学の世界に、成功か失敗かを確定する標準化された方法がなかったからだ」。しかし、サリドマイドなどの薬禍事件を経験した1962年には、標準化された方法を手にしていました。人類が手に入れた新たな強力な力こそ、無作為化対照二重盲検試験(RCT)です。

「科学史上、RCTの発明ほど重大な方法論革命はほとんどない。RCTは意外なほど単純な技法だ。それどころか、あまりに単純なので、見いだされるのにそれほど長い時間がかかったのはなぜかという疑問が生じる。RCTの主要素は名称そのものに表れている――無作為化、対照、二重盲検だ」。

「(RCTは)にせの治療薬を本物と区別するシステムになる。事例証拠、偽陽性、確証バイアスなど、長いあいだ薬の科学につきまとっていた多くのリスクを避けるシステムだ。FDAが1962年、製薬会社に対して効能の証明を要求するようになったとき、それができたのは、その種の証明を有意な形で提出できるシステムが、RCTという方法によってでき上がっていたからだ」。

●世界を変えるカビを大量生産する方法
特効薬が生まれるには3つのピースが必要だったというのです。「抗生物質革命におけるアレクサンダー・フレミングの役割には、特筆すべき別の要素がある。彼は1920年代から30年代にかけて、イギリスの医学界で働いており、当時の医学研究界で最も聡明な人たちに囲まれていた。もし彼がメンデルのように、どこかの修道院でペニシリンを発見していたら、フレミングがなぜかその有用性を厳密に試験する気がなかったことを考えると、その発見はきっと何も進展していなかっただろう。しかしフレミングは広いネットワークの一部になっていた。つまり彼の研究がほかの種類のスキルをもったほかの研究者の注意を引きつけるというのは、起こりうることだったのだ」。

「ペニシリンがすばらしい偶然から、真の特効薬になる段階に進むには、3つのことが起こる必要があった。まず、それが実際に医薬品として機能するかどうかを、誰かが判定しなくてはならない。次に、それを大量に生産する方法を、誰かが考え出さなくてはならない。そしてそのあと、その大量生産品を支える市場が育たなくてはならない。この3つの重要なピースすべてが、かなり短い期間に集結した。およそ1939年から42年までのあいだ、つまり世界政治が恐ろしく混乱した期間だ」。

広く知られている画期的な事例を深く掘り下げることに成功している本書には、脱帽するしかありません。