榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

テナガザルの歌の研究を通じてヒトの言語の起源に迫ろうという意欲的な試み・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2622)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月21日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2622)

ムクゲ(写真1、2)、ナンテン(写真3、4)、ヒマワリ(写真5)、テッポウユリ(写真6)が咲いています。シマススキ(写真7、8)の葉が涼しげです。我が家の駐車場の塀に沿って、庭師(女房)が知らぬうちに、オウシュウマンネングサ(写真9~11)が根付き、花を咲かせています。

閑話休題、『歌うサル――テナガザルにヒトのルーツをみる』(井上陽一著、岡ノ谷一夫コーディネーター、共立出版)は、テナガザルの歌の研究を通じてヒトの言語の起源に迫ろうという意欲的な試みです。

「類人猿というのは尻尾のないサルのことで、大型類人猿のチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンと小型類人猿のテナガザルに分類される。そしてヒトも類人猿である」。

「ヒトがどのようにしてことばを使うようになったのかについては、様々な仮説が提唱されてきた。その一つに岡ノ谷一夫先生が提唱する『言語の歌起源説』がある。ヒトの祖先は歌をうたうことで状況を伝えていたのではないか。たとえば『みんなで狩りに行こう』という歌と『みんなで食事をしよう』ちいう歌があったとする。この歌に共通するメロディが、同じく共通する意味である『みんなで○○をしよう』と結びつき、メロディを歌うことでその意味を伝えられるようになり、ことばの誕生につながったのではないかという仮説だ」。

「もしテナガザルの歌で、音の組み合わせに意味があればどうだろう。そして歌Aと歌Bに共通する部分があり、さらにその共通部分が切り取られ単独でも歌われていたとしたら、この仮説を証明する一つの根拠になるかもしれない」。

「ボルネオテナガザルの歌には、雄の歌(ソロ)と、雄と雌が鳴き交わすデュエットがある」。

「ここからは仮説になるが、テナガザルは複雑なフレーズで鳴き交わす。音は時系列の刺激だ。複雑な音配列を聞き、時間軸に沿って記憶しながら自分の歌をうたっているとしたら。そして、交互に生じる相手と自分のフレーズを記憶する能力が、目の前に起こる時系列な現実世界の記憶に転用されたとしたらどうだろう」。

「テナガザルの社会は基本的に一夫一妻制で、構成メンバーは最大でも5個体だ。・・・物事を時系列に記憶する能力とこのような少人数でも密度の濃いやりとりを通じて醸成された他者理解能力が融合すれば、ヒトと共通する行動が現れても不思議ではないのではと考えている。テナガザルは類人猿であり進化の隣人であるということを今さらながら深く考えさせられた」。