榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

田村隆一というのは、なかなか味のある人物だということが、よ~く分かる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2720)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年9月27日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2720)

耕地では、多数のダイサギ(写真1~7)とコサギ(写真7~10)が群れています。モズの雌(写真11、12)が高鳴きしています。

閑話休題、『言葉なんかおぼえるんじゃなかった』(田村隆一語り、長薗安浩文、ちくま文庫)で、とりわけ興味深いのは、「ホルモン愛から人類愛へ」、「『一寸先は闇』を生きる知恵」、「自然の音がない。つまり、人がいない」の3つです。

●ホルモン愛から人類愛へ――
「結婚しなければわからない――結婚が難しいのは、これに尽きる。なんせ。結婚するまでは、男も女も外面を良くしすぎてるからな。必死で装ってるわけだ、自分を。そして、互いに性ホルモンに突き上げられて結婚するんだよな。・・・結婚して十年過ぎると、ホルモンに押されて結婚した夫婦にも、『戦友愛』のようなものが目覚めてくる。次から次へと予想もしないことが起き、それをひとつひとつ二人で解決していくわけだから、まさに戦場の友として相手を想うようになるんだな。さらに二十年が過ぎると『生物愛』。そして、晩年からフィナーレに近づくと、これはもう『人類愛』(大笑)。自分が人類で相手も人類で、それが多くの奇蹟の結果、隣にいる。ただただ人類であることに感謝しちゃうんだ。凄みがあるだろう、人類愛は。とにかく、一緒に齢をとっていくことが大事なんだ。そうすれば、言葉がいらなくなる。言葉を必要としなくても『好い加減』がわかりあえる関係になる。したがって、『好い加減』夫婦になれれば、その結婚はよかったと思えばいいんだよ」。

●「一寸先は闇」を生きる知恵――
「極端に言うと――。自分が実際に経験した辛いこと、痛いこと、面白いことを素直に次の世代に伝えるのが、教養なんだよ。いろんな本から引用してしゃべることを、ぼくは教養と思っていない。・・・「一寸先は闇」を、つまりは未来を生きていくために、過去から積み重ねた知恵が大事になってくるんだ。その知恵こそを、教養と呼ぶのさ」。

●自然の音がない。つまり、人がいない――
「路地は、露地とも書く。夜露が降りてきて、軒先の草木に水を与えてくれるんだ。露地栽培、なんて言葉もある。つまり、そこには自然がある。たとえば夜中、虫の声が聞こえてくる。・・・日本人はいつも自然を身近なものとして暮らしてきたんだ。大昔からほんのつい最近まで、それが日本人の生活の本質でもあったんだよ。自然に恵まれ、見事な四季の中で生きてきたのが、日本人なんだから。自然の音は、耳障りにはならない。人工的な音は、不自然な音は体にこたえる。不思議だあ、といつも思うよ。雨の音なんて、いいよな。雨音を聴く――こんな言い回しも残ってるぐらいだから、雨音は多くの日本人に染みてきたんだろうな。だけど、東京には、都会には音がない。自然の音がない。アスファルトの道じゃ、人の足音も聞こえないだろ。つまり、自然の音がないということは、人がいない、ということの証なんだ」。

本署を読むと、田村隆一というのは、なかなか味のある人物だということが、よ~く分かります。