榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

本書は、書評とエッセイが程よい加減で融合している・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2734)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年10月11日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2734)

3日間、通った甲斐があり、1日目のより鮮明なキビタキの幼鳥(写真1)の写真を撮ることができました。エゾビタキ(写真2、3)、並んで水浴びするキジバト(写真4、5)をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は11,295でした。

閑話休題、『本を読んだら散歩に行こう』(村井理子著、集英社)は、書評とエッセイが程よい加減で融合しています。

●自分の言葉で書き残すことへの執着
「私にとって、『書く』とはどういった行為なのかと考えることが頻繁にある。翻訳作業で書く文章の量と、エッセイなどとして書く文章の量が同じぐらいのボリュームとなってからは、特にそう思うことが増えた。とにかく朝から晩まで書く日々を過ごしている私だが、なぜそこまでするのかと考えたとき、辿りついた答えは『それを譲ることができないから』というものだった」。

「今回読んだのは近藤康太郎の『三行で撃つ――<善く、生きる>ための文章塾』だ。なぜ人は文章を書くのだろうという答えが、本書にはこれ以上ないほど簡潔な文章で書かれている。『善く、生きる』ためなのだと。そ・れ・だッ! と声に出た。そして本書は、文章の書き方の指南書であると同時に、人生の指南書でもある。著者は文章塾を開いているそうだが、私も一升瓶を担いで通いたい気持ちになった。これから書くことを目指している人には、必携の一冊になるのではないだろうか。私もこれから、幾度となく開くことになる一冊だと確信した。読み終わった瞬間、著者が真っ赤なアロハシャツ姿で散弾銃を構え、こちらに銃口を向けるイメージが鮮やかに脳内に再生された」。

何とも鮮やかな書評ではありませんか。かつて当該書の書評を発表したことのある私としては、脱帽あるのみ。

●四十七歳でいきなり辿りついた別世界
「自分が年齢を重ねることで世界が変わるのは、祝福でもあり、哀しみでもあるだろう。積み重ねてきた美しい思い出の日々が、手のひらからこぼれおちていくような感覚はきっと恐怖以外のなにものでもない。しかし、それでも私はそこに希望を見いだすことはきるのではないかと思わずにはいられない」。

「今回読んだのは、朝倉かすみの『にぎやかな落日』だ。主人公おもちさん八十三歳の言葉がこんなにも胸に響くのは、彼女の日々うつろう気持ちの描写があまりにもリアルで、そして愛らしいからだろう」。

村井理子にここまで書かれては、当該書を読まずに済ますわけにはいきませんよね。

●自分一人の世界を持ちたいと願う気持ち
「人間は誰しも心のなかには自分だけの空間を持っているはずだし、持つべきだと思う。そこに逃げ場を持っているだけで、そこに本当の自分を住まわせるだけで、暮らしはずいぶん楽になるような気がしている」。

「今回読んだのは吉本由美の『イン・マイ・ライフ』だ。一人暮らしの達人である著者による、珠玉のエッセイからは、寂しさなど微塵も感じられない。人生を楽しむ強さがページからこちらに迫ってくるようだ、文章のリズムが最高に気持ちよく、このような力のある美しい文章を久々に読んだ気がしている。著者の強い独立心と思い切りの良さあってのことなのかと感嘆した。あっけらかんと自由な心。なにごとにもとらわれない生き方。読んでいて、爽快な気分。かっこいい。こんなシンプルな言葉しか出てこない。七十年代から八十年代の都会暮らしと、還暦過ぎてからの熊本暮らし、どちらも魅力的」。

当該書も、早速、「読むべき本」リストに加えました。