榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

大学教師の奥山小三郎は昆虫館建設という夢を実現させようとするが・・・ ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2736)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年10月13日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2736)

ホトトギス(写真1)が咲いています。我が家の庭の片隅では、タイワンホトトギス(写真2)が咲いています。

閑話休題、『完訳 ファーブル昆虫記』(集英社、全10巻20冊)の訳業で知られる奥本大三郎の短篇集『箱の中の羊』(奥本大三郎著、教育評論社)に収められている作品には、奥本大三郎を思わせる奥山小三郎が登場します。

とりわけ興味深いのは、『虫ムシ詐欺』です。

「別に声をひそめて言うほどの秘密でもないけれど、奥山小三郎の夢は、昆虫館を建てることである」と始まります。

昆虫に造詣の深い著者ならではの昆虫採集や標本製作に関する専門的な描写が、私たち昆虫好きの読者を楽しませてくれます。

昆虫以外のことには疎い奥山は、昆虫館を巡り詐欺に遭ってしまうのだが、奥山の考え方が実に振るっているのです。「あれだけの事務処理能力のある人間が、どうしてこんな詐欺まがいのことをやるのか。自分でまともな仕事をやればいいじゃないか、そう考えて奥山は『あ、寄生(パラサイト)だ』と気が付いた。ファーブルが研究したスジハナバチヤドリゲンセイという長い名前のツチハンミョウの仲間の甲虫は、苦心惨憺、大変な苦労をしてハナバチの仲間の巣の中に潜り込み、それを乗っ取って、蜂の蓄えたハチミツを横領する。しかしその成功率たるや、何千分の一という、極めて低いものなのである。・・・何もそんなに苦労をしなくても、自分で花粉や花の蜜を集めれば、そのほうがずっと簡単なのに、この虫はそれをしない。『まあ、横嶋もスジハナバチヤドリゲンセイと同じだな』と奥山は納得したのであった。それがこの虫や、こういう人間の本能というわけだ」。

物語の最後は、「このごろ奥山は大学を退職し、にわかに歳をとった感じで、頭を含めて全体に白くなり、にこにこして昆虫館に来る子供をぼんやり眺めている。認知症の噂もあるけれど、昆虫好きの子供たちを心底可愛いと思うようになったようである」と結ばれています。