榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

大雨後、突然現れた砂嘴の先端に小さな図書館が建っているではないか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2757)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年11月3日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2757)

ジョウビタキの雌(写真1~3)、ヒメウラナミジャノメ(写真4)をカメラに収めました。ビワ(写真5)が蕾を付けています。ボタンクサギ(写真6)、サルヴィア・レウカンサ(メキシカンブッシュセージ、アメジストセージ。写真7、8)、セイタカアワダチソウ(写真9、10)が咲いています。ススキ(写真11)、パンパスグラス(シロガネヨシ。写真12)の穂が風に揺れています。我が家の庭で、キク(写真13)が咲き始めました。

閑話休題、短篇集『本の幽霊』(西崎憲著、ナナロク社)は、装丁からして、秘密めいた雰囲気を漂わせています。収められている『砂嘴の上の図書館』は、何とも不可思議な物語です。

「六月は雨が多く、何度か河が氾濫しかけた。河は雨を経験するたびに形をすこしずつ変えていき、その月の最後の雨が収まった日の翌朝、以前にはなかった砂嘴(さし)が現れた。砂嘴の尖に目をやると小さな建物が見える。・・・仕事に向かう途中の町長が一番はじめにその建物に気がついた。町長はそこに住む人間が今後税金を納めるつもりがあるかを確認するために訪問してみることにした」と始まります。

「図書館か、と町長はつぶやいた。・・・『図書館へようこそ』と不意に声があった。驚いて振りむくと、子供が立っていた。少年だった」。

「『こっちの部屋には本がたくさんあると思ったんだが』。『本はあれで全部です。十五冊』。町長は驚いて尋ねた。『十五冊しかないのか、それでは図書館とは呼べない』。『百万の本を収めた図書館と十五冊の本を収めた図書館は完全に同義です。一冊の本のなかにはすでに無限があります。複数の無限というものはありません』。町長は図書館員の言葉の意味がわからなかった」。

「町長は外に出て、渡された本のタイトルをたしかめた。『手のなかの光』とあった。翌朝、月が変わった日の朝に町長は新しい気持ちで目を覚ました。なぜ新しい気持ちなのか理由はわからなかった。夫人はいつものようにパンを焼いてコーヒーを出してくれた。それもなぜか新しいことのように思われた。砂嘴のあった場所にいくとなにもなくなっていた。砂嘴も図書館も跡形もなく消えていた。そのことが自然であるような気がしたしそうでない気もした。町長は鞄を開き、なかを覗いてみた。ないだろうと思ったが、本はきのう入れたままそこにあった。これは返さなければならないと町長は思った。そのためにはまず読まなければならない」と結ばれています。