榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

私の趣味とは合わないが、こういう短篇小説があってもいいのでは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2763)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年11月9日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2763)

夕刻、東京・新宿の神楽坂をぶらぶらしました。因みに、本日の歩数は17,340でした。

閑話休題、読売新聞の書評欄で金子拓が、「谷丹三という小説家をご存じだろうか。・・・種村(季弘)氏が注目した『脱がし屋』なる短篇は、女体をとことんまで見つめ描写し尽くす。そのさまは官能を超え解剖学に近づく。しかもその先にはアッと驚く結末が。牧野信一も顔負けの幻想世界が広がる」と、短篇集『人生は甘美である――谷丹三作品集』(谷丹三著、幻戯書房)を紹介しているのを見て、本書を手にしました。

「白いあしが自動出札機のむこうにうごきだす。ひととき、その青白さが歩行の中にねばりつくが、改札口をとびだし、ちょっと、佇立したのか。肉色の靴下をはいていず、フクラハギのかたまりが、ほっそりくびれた足首からカカトにかけてのピンク色の上で、ことさら、白く浮きだしている」。

「フラットカラーを走るその線どもが、くるいなくコートの上の線どもにつながる。またそれらが、ヒップの丸味をむきだしにしているスカートに・・・イヤ、そうはいかなし。ウェストのところでくびれたコートは、そこからはじまる尻のふくらみにぴったり糊付となっているようだが、その裾がしきりに、右へ、左へと往復運動をしている。見ているうちに、この運動が指のふくらみで、ユビとはくらべものにならないひろがり――ア夫人の見事なデン部であったろうか、それともだれかの――を、あきることなく、なでている感じになってくる」。

「一段あがるごとに、鼻のさきに尻のひとつがつきだされる。あまりに、中味がはいりすぎ、包むスカートがびりっといきそうであり、あるいは、縞馬の歩行のすぐあとにいけば、こんな工合になるのかもしれない。裸かのふくらはぎが、後足になるごとに、玉子をふたつ内側にいれているように盛りあがる」。

本書に収められている『脱がし屋』は、このような記述が延々と続きます。

私の趣味とは合わないが、こういう短篇小説があってもいいのでは。