榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

この本の肝はここだ、というストレートな加藤陽子の書評に魅了された・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2776)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年11月22日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2776)

今日は無駄足だったかなと諦めかけた時、諦めるな、頑張れと励ますかのように、ハクセキレイ(写真1)が近くにやって来ました。その直後、かなり距離があるものの、キセキレイ(写真2~4)が現れたではありませんか。40日間に亘り追い求めてきたキセキレイの今季初の撮影に成功しました。しかも、トンボを捕らえた瞬間を! そこから程近い東京大学柏キャンバスでシジュウカラ(写真5)に出会い、構内のカフェテリアで昼食を摂りました(写真6)。オオバン(写真7)、カワウ(写真8)、ダイサギ(写真9~13)、アオサギ(写真14、15)をカメラに収めました。

閑話休題、『歴史の本棚』(加藤陽子著、毎日新聞出版)は、日本近現代史の研究者の手になる書評集です。

とりわけ興味深いのは、『小林秀雄の流儀』、『日本陸軍の対ソ謀略』、『スターリン――「非情の独裁者」の実像』の3冊です。

●『小林秀雄の流儀』(山本七平著)――過去を語り未来を創る力
「1983年の小林秀雄の訃に接し、『新潮』から追悼文を依頼された時の当惑から山本七平は筆を起こす。・・・山本は、小林の言動が社会に衝撃を与え続けたのは何故かと問う。山本が用意した答えはこうだ。小林は、過去を語ることによって未来を創出していたからだ、と。14世紀に書かれた歴史書を手繰り寄せ、その著が後の世で果たす動的な役割を展望した小林。その小林を今度は山本が手繰り寄せ、過去を語る小林の批評文に未来を創出する力を見出していた。本書の重要なテーマの一つは、過去と未来の関係、すなわち歴史なのだ」。こういう透徹した見方ができるとは!

●『日本陸軍の対ソ謀略――日独防共協定とユーラシア政策』(田嶋信雄著)――『柔らかな下腹』うかがう「西漸と東漸」
「この本の縦軸をなす1936年の日独防共協定については、教科書では、ソ連を中心とする国際共産主義運動に対抗するための協定と説明される。だが、4年後に結ばれた日独伊三国軍事同盟が、アメリカを牽制するための明解な条約だったのに比べ、防共協定の実態は、これまでわかりにくかった。・・・西漸する日本と東漸するドイツ。日独がユーラシア大陸上の一点で邂逅するイメージは、両国が協力関係に転じた時、ソ連という巨大な国家の柔らかな下腹を脅威しうる強力な連衡の成立を意味する。日本の参謀本部が、正規軍同士の正面きっての戦いでは日ソ戦争は決着しえないと自覚し、ソ連内部の諸民族の煽動、軍事通信施設への破壊工作等の謀略戦に望みをかけていたとの著者の読み解きは見事で、深く魅了された」。日本陸軍がこのような謀略を企図していたことを、初めて知りました。

●『スターリン――「非情の独裁者」の実像』(横手慎二著)――レーニン後の強権像、修正すべき時期に
「本書は、ソ連研究の第一人者が、スターリンを通じてロシアという国を理解し、ロシアという国を通じてスターリンを理解すべく書いた、折り目正しい歴史書である。最新の研究成果をあまねくふまえ、真偽を根気よく腑分けした著者のおかげで、ここに我々は最も信頼すべきスターリン伝を手にすることとなった」と絶賛されています。

「本書の白眉は、スターリンが権力闘争に勝利し最高権力者に登りつめた理由を、党と国家が二つながら置かれていた状況から説明した点にある。ヨーロッパとアジアにまたがる巨大な国家が、戦争から革命へと変貌する、その決定的瞬間において、党組織の問題と民族の問題に注意を払っていたのは、ボリシェビキ党広しといえどもレーニンとスターリンだけだったとの指摘が重要だ。・・・2人の共通点は他にもあった。それは、政権を支える基盤となる食糧調達への仮借なさだ。1990年代末に初めて公表された1918年のレーニンの電報には、『名うてのクラーク(富農)を民衆に見えるように縛り首にせよ』との命令が見える。大衆的な人気のあったレーニンのあとを、強権的なスターリンが継いだとのイメージは修正すべき時期がきているようだ」。この件(くだり)を読んで、私のレーニン、スターリンに対するイメージは脆くも崩れ去りました。

この本の肝はここだ、というストレートな加藤陽子の書評に魅了されました。