榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「平均律クラヴィーア曲集」をじっくり聴きたくなってしまいました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2825)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年1月10日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2825)

縄張り意識の強いジョウビタキの雄(写真1~3)と雌(写真4~6)が、林間の小道の両者が20mほどしか離れていない場所に出現したので、びっくり。ホオジロ(写真7、8)をカメラに収めました。強い北風が吹く中、カキの実にメジロ(写真9~14)、シジュウカラ(写真14、15)、ムクドリ(写真16)が群れています。因みに、本日の歩数は11,201でした。

閑話休題、『作家の老い方』(草思社編集部編、草思社)では、島田雅彦の「老人とジム」、谷川俊太郎の「明日が」、吉田秀和の「不条理と秩序」――の3つがとりわけ印象に残りました。

●島田雅彦
「老人は退屈とどう戦うべきか、これは今後の文学の課題でもあろう。谷崎潤一郎始め文豪はみなこの問題と誠実に向き合ってきた。私などよりずっと長く書いてきた文豪はいう。書くことがなくなってから、文士になるのだ、と。その文豪は、電車に乗って都心に出かける時、肌を合わせたいと思う女に何人出会えるかを数えるのだという。なるほど書くことがなくなっても、スケベ爺でいる限りは退屈している暇などないか」。

●谷川俊太郎
「老いが身についてきて しげしげと庭を見るようになった 芽吹いた若葉が尊い 野鳥のカップルが微笑ましい  亡父の代から住んでいる家 もとは樹木だった柱 錆びた釘ももとは鉱石 どんな人為も自然のうち  何もしない何も考えない そんな芸当ができるようになった 明日がひたひたと近づいてくる  転ばないように立ち上がり 能楽の時間を歩み始める 夢のようにしなう杖に縋って」。

●吉田秀和
「身体の不調で病院に行ったら、不治の病と診断される。・・・死に至る病を身中に抱え、どれほどの余命か、誰一人予断できないまま、生死の間を不安の中で刻一刻過ごす。こういう事態に直面した人は、誰だって、なぜこういうことがほかならない自分に起こったのか、なぜ、その位置に病気が巣喰ったか絶えずたずねないではいられまい。だが、答えはない。・・・この(不条理の)考えに取り憑かれ、心は閉ざされ、何十年もなりわいとしてきた音楽をきくための窓をあける気力もないまま、私は時を過ごしていた。・・・その時、バッハが来た。それも『マタイ受難曲』やカンタータの類いではなく、まず『平均律クラヴィーア曲集』全2巻。これをききだして、私はこの不条理の世界にも何かの秩序がありうるのではないかという気がしてきた。その秩序がどういうものかはわからない。きいたあとは不条理、無意味の苦い思いは消えず、また戻ってくる。しかし、この音楽が続く限り、心が静まり、世界には何もないのかもしれないが、その空虚の中で空虚のままにひとつの宇宙的秩序とでもいうべきものが存在しているのかもしれないという気がしてくる」。「平均律クラヴィーア曲集」をじっくり聴きたくなってしまいました。