榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

40歳直前の阿紗は、マンションの隣の部屋に住む老婆のゴミ箱化している部屋の片づけを手伝うことに・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2905)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年3月31日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2905)

東京・文京の小石川後楽園で、カワセミの雄(写真1~3)、ヒドリガモの雄と雌(写真2)、カルガモ(写真4)、ミシシッピアカミミガメ(写真5)をカメラに収めました。ヤマザクラ(写真6、7)、セイヨウシャクナゲ(写真8、9)、ハナカイドウ(写真10)が咲いています。アオキの雄花(写真11)、雌花(写真12)、雌花と実(写真13)が目を惹きます。我が家の庭師(女房)から、オダマキ(写真15)、フクロナデシコ(写真16)が咲き始めたと報告あり。因みに、本日の歩数は12,173でした。

閑話休題、『片をつける』(越智月子著、ポプラ文庫)は、一言で言えば、片づけ小説です。

一人暮らしの40歳直前の阿紗は、マンションの隣の部屋に住む推定75歳の八重を助けたことがきっかけで、ゴミ箱化している八重の部屋の片づけを手伝うことになります。

「この目つきの悪さ、ごつい鷲鼻、底意地の悪さがにじみ出た喋り方。白雪姫やヘンゼルとグレーテル、眠れる森の美女・・・。けなげな主人公を不幸の渦に落とし入れる魔女そのものだ。なんでまた自分
は、こんな性ワルを部屋に入れてしまったのか。まったく魔術にかかったとしか思えない」。

「キリスト教については詳しくないが、七つの大罪ぐらいは知っている。傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、そして怠惰。隣の部屋で待つ元シスター見習いは、片づけがまるでできない。そのあまりのだらしなさは怠惰の極み。それゆえ修道院をクビになったのではないか。そんな気がしてきた」。

「自分の人生はこれまで見捨てられることの連続だった。かわいげがない、強い、心を開かない・・・。自分ではそんなつもりはなかった。どのように振る舞えば、相手が満足してくれるのかわからなかった。わからないまま人生は去っていく。仕方ないと思った。追ったところでまた捨てられる。だったらひとりでいい。そのほうが傷つかなくていい」。「自分は蓼みたいな女だと阿紗は思う。見た目は地味。いいことなんて何もない人生を送ってきたせいで口に出る言葉も苦くてしょっぱい」。

「今までずっと不思議だった。自分はなぜこうも八重の面倒を見てしまうのか。べらんめぇ調でののしられながら、悪態をつかれながら、それでも八重のために立ち働いてしまう。だが、働かされているという気がしない。むしろ率先してやっている。その理由が今、わかった。八重は無駄口こそ叩くが、無駄なことは聞いてこない。過去のことも、家族のことも。・・・意識しているのかいないのか、境界線の手前でとどまり、阿紗のささやかな人生を尊重してくれている。この距離感が心地いい」。

「もっと八重のことを知りたいと思う。だが、訊ねるのは憚られる。人は誰でも何かしら話したくない、思い出したくない過去を抱えて生きている。その過去を強引に聞き出し、共有することが、親密であることの証とはいえない。容易には明かせない過去と向きあっている八重に、なんと言葉をかけるべきなのか。言葉が見つからない」。

登場人物の数が極端に少なく、一人芝居ならぬ二人芝居の趣で物語が進んでいきます。それにつれて、謎のヴェールに包まれていた八重の正体が徐々に明らかに。

物の片づけ、胸中の片づけに止まらず、人間関係とは何か、人生とは何かということまで考えさせられる、奥行きのある小説です。

読み終わった時、八重、阿紗、そして作者の越智月子を大好きになっている私を発見しました。