恐竜時代の哺乳類は小型化戦略が成功し、次代の覇者になることができたという説得力ある仮説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2924)】
オオデマリ(写真1、2)、ナニワイバラ(ナニワノイバラ。写真3、4)、チューリップ(写真5、6)、アマリリス(写真7~10)、シラン(写真11)が咲いています。我が家の庭師(女房)から、キンギョソウ(写真12)、色合いの違うクレマチス(写真13、14)が咲いているわよ、と報告あり。
閑話休題、『哺乳類前史――起源と進化をめぐる語られざる物語』(エルサ・パンチローリ著、的場知之訳、青土社)の著者が一番言いたいのは、恐竜時代の哺乳類は小型化戦略が成功し、次代の覇者になることができたということです。私たちの祖先は、怯え切って、こそこそと物陰を逃げ回っていたネズミのような存在だったというのは、誤解だというのです。
「学名だけでなく、俗称も時にうっとうしいくらい頑固だ。哺乳類の祖先である単弓類に対しては、かつて『哺乳類型爬虫類』という通称が広く使われていた。こうして文字にすることさえ耐えがたい名前だ。哺乳類の起源に関する名著のいくつかにもこの呼称が使われていて、次世代の学生や一般大衆への『延焼』になかなか歯止めがかからない。廃れた専門用語の残骸でしかないのに、なじみのある基準に立ち返るほうが簡単で、そのせいで不適切な名称の延命が続いている」。
「哺乳類と爬虫類、単弓類と竜弓類の間の断絶は根深い。その端緒は石炭紀、陸上生活のパイオニアたちの時代にさかのぼる。・・・かれらの違いは本質的なものだった」。
「最初の哺乳類とそれ以外の親戚は、あるひとつの特徴で区別される。顎関節だ。・・・顎の後端の関節が歯骨と鱗状骨(頭骨の頬の部分を構成するパーツのひとつ)で構成されていれば、やったね、哺乳類! この2つの骨が接していないなら、哺乳類以外のなにかだ」。
「かれら(哺乳類)の出現は三畳紀後期からジュラ紀の序盤にかけて起こった。三畳紀末の大量絶滅は大型爬虫類の系統を再編し、ワニ類が失脚する一方、恐竜は地球の陸上生態系の主役に登りつめたが、哺乳類の系統はこれを素通りした。・・・地上にあふれかえった恐竜は、獣弓類やワニ系統の爬虫類がそれまでに占めていた生態的地位に収まっただけでなく、地球史上屈指の巨大生物となり、のちの人類を魅了した」。
「一見したところ、最初の哺乳類はちっぽけな存在に転落したかに思える。かれらは爬虫類との戦いに敗れ、暴君の支配に屈したようだ。・・・哺乳類にできることといえば、縮こまってかれら(恐竜)のおやつになるのを待つだけだ。・・・彼(ジョージ・ゲイロード・シンプソン)ですら、中生代哺乳類はもっとも下等な獣にすぎないと考えていた。ちっぽけな体躯に感銘を受ける人はほとんどいなかった。こうしたネガティブな見方はいまもほとんど変わっていない。・・・高貴なる爬虫類の兄弟の陰で、かれらは隠れ、這い、逃げ回る。汚らわしいネズミのような姿。堂々たる爬虫類に抑圧され、虐げられたかれらは、嘲笑の的であり、負け犬だ。恐竜の時代、哺乳類は何もできなかったとわたしたちは教わり、生命の叙事詩のなかのかれらをスキップする。哺乳類の進化に関する本のほとんどは、かれらがついに盟主の支配を脱し、大型化するところから始まる」。
「進化のゲームで好成績を収めるとはどういう意味なのか、わたしたちはそろそろ認識を改めるべきだろう。中生代の哺乳類は、確かに三畳紀後期に体重を減少させた。かれらは祖先よりもずっと小さくなり、一方で恐竜は大きくなった。しかし、哺乳類の小ささは欠点どころか、大発明だった。かれらは陸生四肢動物の小型化における、新たな方法を開拓した。巨体がひしめき合うなかで居場所を失ったかれらは、新たな活路を見出し、あえて小さくなったのだ。哺乳類は、祖先から高い代謝と体温という恩恵を受け継いだ。これらの特徴のおかげで、かれらは三畳紀後期に小型化を実現しただけでなく、夜行性にもなった。夜の冷え込みは、体内に熱生成システムをもつ動物にとっては問題ではなかった。最初の哺乳類が夜行性だったとわかるのは、今日の地球上に生きるすべての哺乳類の眼に残された遺産のおかげだ」。
「三畳紀後期からジュラ紀前期にかけての最初の哺乳類たちはパイオニアだった。かれらはどの恐竜にもできなかったことを達成した。小型化し、手つかずの夜間活動のニッチに進出したのだ。現在も、この星に生きる約5500種の哺乳類のうち、90%は小型種で、齧歯類がその大半を占める。現生哺乳類の体重の中央値は1キログラムに満たない。小さくこそこそするのは、進化的に見れば降格などではなく、生き抜くための冴えたやり方だ。だからこそ2億2000万年後のいまも、かれらは同じ戦略を貫いている。新たに獲得した咬合力を活かした哺乳類は、昆虫にとって恐るべき脅威となった。比較的安全な夜の闇の中、鋭敏化した感覚を駆使した最初の哺乳類は、大きな脳を獲得し、それがより複雑な社会行動の基盤となった。ちっぽけな祖先たちは、生きたマイクロチップだった。暗夜ゴーグルを装備した、ふわふわの小さな忍者たちは、獲物の昆虫に音もなく忍び寄り、手裏剣のような歯で仕留めた。小さな戦士たちに不用意に手を出す捕食者は、痛い目にあっただろう」。
「三畳紀後期につつましく一歩を踏み出した哺乳類は、ほどなく世界を席巻した」。
「恐竜のあとの世界が落ち着きを取り戻すなか、いち早く台頭したのは真獣類の哺乳類だった。中生代の後半には脇役にすぎなかったグループだ。古第三起に起こった真獣類の華々しい回復は、地球上のすべての生命に影響を及ぼした。こうして『哺乳類時代』の第2幕が始まった」。
力強い説得力に満ちた一冊です。