榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自分は不美人だと思い悩んでいる人のための応援小説だニャー・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2941)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年5月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2941)

キンセンカ(写真1、2)、シャクヤク‘ミライ’(写真3)、クレマチス・インテグリフォリア(写真4)、ハナアロエ(ブルビネ・フルテスケンス。写真5)、ガウラ(ヤマモモソウ、ハクチョウソウ。写真6)、ムラサキツユクサ(写真7)、ショカツサイ(オオアラセイトウ。写真8)、ヒメウツギ(写真9、10)が咲いています。ハクロニシキ(写真11)の葉が涼しげです。チガヤ(写真12)の穂が風に揺れています。我が家の庭師(女房)から、ヒメヒオウギ(フリージア・ラクサ。写真14)が咲き出したわよ、との報告あり。バラ(写真15)が見頃を迎えています。

閑話休題、小説『きりこについて』(西加奈子著、角川文庫)は、「きりこは、ぶすである」という衝撃的な一文で始まります。「とにかくランダムに、出来るだけまばらに、色んな人を集めて、その人たち皆にきりこを見てもらい、『どうか正直に言ってほしい』とお願いしたら、きっと九十七人、いや九十八人、もうちょっと頑張って九十九人、こうなったらやけくそで百人! は、『ぶすである』と、言うだろう」。

ある日、突然、自分が不美人であることに気づかされたきりこと、人間の言葉を話すことのできる、きりこの愛猫・ラムセス2世の物語です。

「きりこは二年間ほど、鏡を見つめ続けた」。

「『人間より、猫のほうがええ』。数年経って、改めてこのことを痛感したきりこは、猫のように、夜行動して、昼間は眠っているようになった。当然学校には行けなかったし、そのまま、高校にも、行かなかった」。

「きりこは十七歳になったが、一時的な拒食症の反動で、今度は過食症になっていた。・・・高校に行かなくてもいい。お嫁に行きたくないのなら、行かなくてもいい。そして、起きているのが辛い『何か』があるのなら、眠っていればいい。起きている間、笑っていてくれれば、それでいいのだ。パァパは昇進したばかりだし、マァマはパート先のスーパーで信頼されていた。大丈夫、大丈夫。ふたりは自分にそう言い聞かせ、きりこの眠るさまを、いつまでも見守った」。

18歳になったきりこは、レイプされたと公に告発する3歳年上のちせちゃんの力になりたいと、4年ぶりに日の射す外に出ます。「必死であった。数年会っていなかったちせちゃんの胸の痛みが、きりこには分かる気がした。男の子と性交さえしたことのないきりこであったが、ちせちゃんが傷ついている、というそれだけで、十分だった」。

「きりことちせちゃんがしたことは、ちせちゃんと同じような体験をした女性たちのための団体に、相談に行くことであった」。

「きりこはニ十歳になったこの頃も処女であったが、(AV女優の)ちせちゃんのビデオのおかげで、男女の体の仕組みについて、体育館で教わったときの六万倍ほどの知識を身につけていた。ちせちゃんのビデオのスタッフたちも、たまにスタジオにやってくる、黒猫を抱いた、お姫様のようなドレスを着たきりこの存在に、一目置くようになっていた」。

「有限会社ラムセスは、百戦錬磨の元女優の社長と、処女の副社長と、一度強姦されただけで後、性交の経験のない経理という、アダルトビデオ業界の会社としてはいささか変わった組織になった。ラムセス2世は、『性交の回数を三人合わせると、ちょうどいいかもしれませんね』と言った。きりこも、それに賛成した」。