榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

この3冊――苛烈な作品、笑いころげさせる作品、読者を震わせる作品・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3042)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年8月16日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3042)

ミンミンゼミの雄(写真1)、アブラゼミ(写真2)、ウチワヤンマ(写真3)、サトキマダラヒカゲ(写真4)、アカボシゴマダラ(写真5、6)、オオカマキリ(写真7)、マメコガネの交尾(写真8)、ニホンカナヘビの幼体(写真9)をカメラに収めました。ヤマハギ(写真10~12)が咲いています。ノブドウ(写真13~15)が実を付けています。我が家のキッチンの曇りガラスにニホンヤモリ(写真16)が久しぶりに出現。

閑話休題、『文庫の読書』(荒川洋治著、中公文庫)のおかげで、読みたい本が3冊見つかりました。いや、読まずにはいられない作品というべきでしょう。

●苛烈な名作 『葉山嘉樹短篇集』(道籏泰三編、岩波文庫)
「『淫売婦』(39枚)はさらに衝撃的。船員の『私』は横浜で、蛞蝓(なめくじ)みたいな顔の男らに金をとられる。連れていかれたのは薄暗い倉庫のような建物。腐った畳の上に、瀕死の全裸の22、3歳の女性が横たわる。『好きなように』していいと男たちは言う。哀れな女性を見世物にして彼らは生きているのだ。義憤を感じた『私』は彼らに飛びかかるが――。ここまで読んでも、このあとの展開を、予想できる人はまずいないのではないか。『私は蛞蝓の萎びた手を力一杯握りしめた』という結びまで、情景は苛烈だが、粗略な表現は一つもない。誠実な文章は底の底を照らす。人が生きることの意味が、とても新しい角度から現れてくる。人間の見方が、これまで感じることも、想像することもない形に変えられていくような気持ちになる。どこを見ても際立つ傑作である」。

●壊す人 『傍迷惑な人々――サーバー短篇集』(光文社古典新訳文庫)
「本邦初訳の『なんでも壊す男』から、読むことにした。小説というよりエッセイのような感じの作品である。自分のことを、すなおに書いているのだ。『ぼくは生まれつき、道具というものとどうも相性がよくない』そうだ。・・・ぼくは、この『なんでも壊す男』を読みながら、久しぶりに笑いころげてしまった。・・・いま自分は何をしているのか。それをいつも見つめる。そこから心地よい、待望のユーモアが生まれるのだ」。

●水曜日の戦い 『オコナー短編集』(須山静夫訳、新潮文庫)
「アメリカの女性作家フラナリー・オコナー(1925~1964年)は、39歳という若さで亡くなった。読む人の内部を壊して、別の物と取り替える。そんな作品を残した。・・・『善人はなかなかいない』や『善良な田舎者』といった作品は、人間が書いていたはずの小説が突然、人間から離れ去っていくかのような異常な展開。・・・オコナーは、かつて例のない非情の目をみひらいて人間を愛し、人間を見つめた。いまも『善良な』読者を震わせる」。