榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

刺激的な評が魅力の名著ガイドブック・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3128)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年11月10日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3128)

都立富士高時代の同級生・松倉(旧姓・藤井)公子さんが出演する第10回銀座寺子屋朗読会で、奥の深い朗読の世界を堪能することができました(写真1~3)。我が家では、バラが花と実を付けています(写真4)。因みに、本日の歩数は11,671でした。

閑話休題、『名著のツボ――賢人たちが推す!最強ブックガイド』(石井千湖著、文藝春秋)のおかげで、名著のツボを知ることができました。

●『ツァラトゥストラはこう言った』(ニーチェ著)のツボ=自分が歩んだ過去は、自分が欲したことだ、とする「永遠回帰」の思想が語られている。

「社会学者の大澤真幸さんは『ニヒリズムをどうやって神なしで乗り越えるか、ということがニーチェの出発点です。人生は無意味とするニヒリズムを反転させて、生のすべては意味に満ちているという思想が語られています』と説く。・・・『永遠回帰』を正しく理解するためのポイントとは? 『ニーチェは人間にとって最悪の精神状態を表すのにルサンチマンという言葉を使っています。ルサンチマンとは弱者が強者に向ける憎悪や復讐心のことです。ルサンチマンはすでに起こったことに対して後悔することで生じる。例えば、どうしてもっと大金持ちになれなかったのかとか、違う人と結婚すればよかったとか。欲して満たされなかったことに執着して、恨みを溜め込んでいく。どんな人生でも死ぬ間際に『よし! もう一度!』と思えるならルサンチマンは残らない。なぜなら、このとき、自分が歩んできた過去はまさに自分が欲していたことだったことになるからです』」。

●『失われた時を求めて』(プルースト著)のツボ=伝統的な恋愛心理小説の系譜に連なりながら、人間の性をめぐる多様性を描いた。

「『失われた時を求めて』はまた、ホモセクシュアルを堂々と描いた作品としても知られている。プルーストは同性愛者だった。主人公が愛する女性アルベルチーヌはプルーストが熱愛した秘書の男性アゴスチネリをモデルにしているという。だが、自らの性指向を赤裸々に告白した小説ではない。中条(省平)さんは『登場人物の性指向は固定的ではなく、グラデーションになっています。ホモセクシュアルというよりは、今で言うLGBTQに近いですね。『失われた時を求めて』は人間の性をめぐる多様性を描いた小説とも言えるでしょう。フランス文学の伝統的な恋愛心理小説の系譜に連なりながら、人間はセックスについていかに不可解なものを抱いているかを教えてくれる小説でもあります』と評する」。

●『オデュッセイア』(ホメロス著)のツボ=時代や国を問わずあてはまる戦後を生きる人の苦悩が描かれている。

●『城』(カフカ著)のツボ=システムが不透明な官僚機構と「城」を重ねて読むこともできる。

●『老子』のツボ=根拠はなくても人生なんとかなる――未来の偶然性に開かれた言葉。

●『阿Q正伝』(魯迅著)のツボ=革命後の中国も、結局は弱者が犠牲になる「食人社会」のままだと告発している。

●『リヴァイアサン』(ホッブズ著)のツボ=「希望の平等」という感覚が戦争状態を生み出す。

●『利己的な遺伝子』(ドーキンス著)のツボ=ダーウィンの理論を遺伝子レベルに還元した、ある種のサイエンス・フィクション。

●『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(ヴェーバー著)のツボ=極端に禁欲的な個人倫理が極端に貪欲な資本主義の精神を生み出した。

まだ読んでいない本については、頼りになるガイド役を果たしてくれ、一方、既読の本については、自分の見方とは異なる刺激的な評を示してくれる一冊です。