榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

山口謠司の快刀乱麻ぶりが小気味よい名作紹介・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3245)】

【僕らは本好き読書隊 2024年3月4日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3245)

今季初めて、ウグイスの完成間近のぐぜり(ホーホケキョを練習中の鳴き声)を耳にしたが、撮影はできず。アオジの雄(写真1)、雌(写真2~4)、ツグミ(写真5)、ヒヨドリ(写真6)をカメラに収めました。我が家の餌台「空中楽園」には、毎日、メジロ(写真8,9)、シジュウカラ(写真10、11)がやって来ます。キジバト(写真12)もやって来ました。

閑話休題、『これだけは知っておきたい日本の名作――この一冊が時代を変えた』(山口謠司著、さくら舎)では、『源氏物語』から村上春樹まで63作品が取り上げられているが、著者・山口謠司の快刀乱麻ぶりは小気味よいものがあります。

個人的に、とりわけ印象深いのは、「『吾輩は猫である』夏目漱石――海外の種本をちゃっかり拝借」です。

「漱石の『猫』は、はっきりいって盗作です。第1にドイツの作家ホフマンの『牡猫ムルの人生観』こそ、漱石の『猫』の素となったものでした。でも、ホフマンのものだけではありません。じつは、ほかにも漱石の種本はたくさんあります。19世紀後半に書かれたとされる作者不詳の官能小説『蚤の自叙伝』、ロバート・バーの『放心家組合』、そして内田魯庵の『犬物語』です。もしかしたらまだあるかもしれませんが、これくらいでも十分でしょう」。

「やはり、漱石はホフマンの『猫』を知っていました。そして1回限りの読み切りとして『猫伝』を書いたのです。ところが、それが当たってしまう。強がりで気の弱い漱石としては、周りの人にこれはホフマンが下敷きにあるなんてことはおくびにも出せなかったに違いありません」。

「漱石の『猫』は、下敷きにはホフマンの『猫』を使い、ときどき適当に西洋の文学作品の中から、おもしろい部分を使って連載されました」。

「じつはこの話、漱石は『イワンの馬鹿』から採っています。このことは、漱石を崇拝するあまり神格視することが多く、『漱石神社の神主』と揶揄された漱石の弟子小宮豊隆も、仕方なかったのか・・・昭和39年の『漱石全集』解説で指摘します、『この<馬鹿竹の話>は、恐らくトルストイの<イワンの馬鹿>から来たものに相違ない』」。

「もうひとつ、漱石の『猫』の種本とされるスウィフトの『ガリバー旅行記』について記しましょう」。

「漱石は『猫』を創作(!)しながら、しかし、魯庵が書いた『猟犬になりたい<犬>』を心の中に飼ってしまったのではないでしょうか。その猟犬は、江戸の流れを汲む翻案という、安易に人の文章を底に面白おかしく創作のできる場を餌に育ち、彼の気持ちを暗くし、胃潰瘍を悪化させました」。何と痛烈な皮肉ではありませんか。

思いがけず人気が出てしまったため、慌てて連載のための種探しに奔走した漱石を想像すると、気の毒な気がしないでもありません。