榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

著者の古本愛が溢れて、ポタポタと滴が垂れるかのような一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3282)】

【読書クラブ 本好きですか? 2024年4月7日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3282)

植物観察会に参加したが、講師の小幡和男先生の解説で植物の奥深い世界を垣間見ることができました。ツタ(写真1、2)、キヅタ(写真3~5)、カラスノエンドウ(写真6、7)、スズメノエンドウ(写真8、9)、カントウタンポポとセイヨウタンポポ(写真10。左がカントウタンポポ)、カントウタンポポ(写真11~13)、セイヨウタンポポ(写真14、15)、ノゲシ(ハルノノゲシ。写真16)を観察することができました。アゲハ(写真17)、センチコガネ(写真18)をカメラに収めました。

閑話休題、『古本大全』(岡崎武志著、ちくま文庫)は、岡崎武志の古本愛が溢れて、ポタポタと滴が垂れるかのような一冊です。

とりわけ印象深いのは、●植草甚一が教えてくれた、●意外な人が古本好き、●古本「タイトル」小考――の3つです。

●植草甚一が教えてくれた

「要するにこの世に生を享けて、墓場に入るまで、人生は膨大なひまつぶしだと教えてくれたのは、われらが植草甚一だった。・・・表紙を手でさすったり、奥付を確かめ、目次を目で追うなどの一連の儀式を終え、最初のページの数行を読みはじめる。コーヒーがじつにおいしい。もうこの時点で古本代の元は取ったと言える。これも植草さんが教えてくれたことだった」。

●意外な人が古本好き

「<古書好きの人はすぐわかる。棚をゆっくりとなめるようにみていて、これはと思うものがあると、こわれものでも扱うような手つきで抜きだす。その本が、期待していたものでないとわかり、たとえ買うのを断念したとしても、こういう人は折り曲がった部分があれば、それを伸ばしておかないと気がすまない。ぼくは、古書好きな人が、本をあさっているところをみるのが好きだ>。これはある人が書いた文章。本当に古本が好きであることは、ここだけ読んだってわかる。・・・いったい、だれがこれを書いたかと思うでしょ。いろいろ思い浮かべてもたぶん当たらないと思う。それほど意外な人物です。答えは、ムッシュこと『かまやつひろし』だ」。

●古本「タイトル」小考

「作家の中でもタイトルをつけるのが巧い人と下手な人がいる。下手な例は挙げないが、巧い方で定評があるのが、獅子文六、松本清張、石川達三、大江健三郎など。・・・松本清張(ゼロの焦点、点と線、砂の器、Dの複合)――これも簡潔。黒という字が多用されるのも特徴(黒い福音、黒い画集、黒の様式など)。二つの異質なものをドッキングさせて、いわくありげなイメージを作るのも巧い。『点と線』がそうだし、『眼の壁』『時間の習俗』もそう。しかし、僕が一番巧いと思ったのは、短編の『一年半待て』である。これは天才的なタイトルだ。それだけでいろんな場面を想像してしまう。そして、つい本に手がのびる」。

しかし、本書で残念なことが一つあります。●古本は中央線に乗って で、「東京の西側へ伸びる鉄道路線はあまたあれども、これほど駅ごとに古本屋が充実したエリアはほかにない。・・・とくに中野から三鷹までの間、各駅に、周辺住民の古本需要と供給がまかなえるぐらい、密度が濃く、活気がある」とあるので、荻窪育ちの私は大いなる期待を持って、この件(くだり)を読み始めたのです。

それなのに、何ということでしょう。高円寺の古本屋が詳しく紹介され、さあ、次は、阿佐ヶ谷、荻窪だなと目を凝らしたら、「阿佐ヶ谷、荻窪と書き出せばきりがない。少し飛ばして、書きとどめておきたいのが西荻窪にあった『スコブル社』」と書かれているではありませんか。岡崎さん、それはないよ~!