榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

千利休は豊臣秀吉をどう思っていたのか――『利休にたずねよ』では、どう描かれているのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3469)】

【読書の森 2024年10月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3469)

我が家の庭師(女房)が、庭の片隅のニホンカナヘビを見つけました。

閑話休題、小説『利休にたずねよ』(山本兼一著、PHP文芸文庫)は、構成に工夫が凝らされています。

千利休が豊臣秀吉から死を賜り切腹した天正19(1591)年2月28日から始まり、利休切腹の前日の秀吉、切腹の15日前の細川忠興、切腹の24日前の古田織部、切腹の1カ月前の徳川家康、切腹の1カ月と少し前の石田三成、切腹の2カ月と少し前の利休、切腹の前年の利休、切腹の前年の山上宗二、切腹の4年前の利休、切腹の5年前の利休、切腹の9年前の千宗易(のちの利休)、宗易49歳時の織田信長、19歳時の千与四郎(のちの利休)と時を遡り、最後は利休切腹の日の宗恩(利休の後妻)で終わっています。

本作では、利休の女性関係――初恋、前妻、後妻――も重要なテーマになっています。

個人的には、利休は秀吉をどう思っていたのか、それを著者がどう描いたのかに興味があります。「――猿めが。あの男の顔を思い出すと、ただひらすら腹立たしい。死なねばならぬ理由など、なにひとつありはしないのだ。すべては、あの小癪な小男のせいである。女と黄金にしか興味のない下司で高慢な男が、天下人となった。そんな時代に生まれあわせた我が身こそが不運である」。

利休切腹の前年の、利休の弟子・山上宗二に対する秀吉の仕打ちは衝撃的です。「茶頭として秀吉に仕えていた宗二が、秀吉の怒りをかって大坂城を放逐されてから、すでに七年の月日がながれた」。二人の間を執り成そうと努める利休の眼前で、宗二は再び秀吉の怒りをかってしまいます。「冷ややかにひびいたのは、秀吉の声だ。『さがることは相成らん。庭に引きずり出せ。おい、こいつを庭に連れだして、耳と鼻を削げ』。・・・宗二は、意地でも謝るつもりはない。秀吉としばらくにらみ合った。『首を刎ねよ』。秀吉がつぶやくと、宗二の頭上で白刃がひるがえった」。