榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

互いに「ムコさん」、「ツマ」と呼び合う若い夫婦に、突然、起こったこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3500)】

【読書の森 2024年11月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3500)

ヨシガモの雄(写真1~5)、雌(写真6)、ホシハジロの雄と雌(写真7~9)、雄(写真10)、ホシハジロの雄とオカヨシガモの雄と雌(写真11)、オカヨシガモの雄(写真12)、雌(写真13)、マガモの雄と雌(写真14、15)をカメラに収めました。

閑話休題、『きいろいゾウ』(西加奈子著、小学館文庫)は、互いに「ムコさん」、「ツマ」と呼び合う若い夫婦の物語です。

夫・武辜歩(むこ・あゆむ)は小説家だが、収入を補うため、車で20分くらいの所にある特別養護老人ホーム「しらかば園」で仕事をしています。そして、毎晩、日記をつけています。

妻・妻利愛子(つまり・あいこ)は、小学3年生の時、心臓の病気で1年間入院したことがあります。ツマには、庭の木や草や花の声が聞こえるという特殊な能力があります。そして、密かにムコさんの日記を読んでいます。

二人が東京からこの村に引っ越してきて、そろそろ1カ月が経ちます。

「私たちは東京で、そう、壁の薄いアパートで、隣の人に聞かれるのも気にしないでセックスをしたのに。あっけらかんと、次の日外に出て行ったのに。今はこうやって、蚊帳の中で、声を潜めている。静かに、静かに、誰にも見つからないように、セックスをする。ムコさんが、今日の月みたいな目で、私を見る」。

「シャツを脱いだとたん、ムコさんの背中から、腕から、鳥が羽ばたく。黄色、緑、オレンジ、桃色、赤、朱、たくさんの色が私の目の前でちらちら揺れる。初めて見たとき、あんまり綺麗だから、私はほうとため息をついて、いつまでもそれに見とれてしまった。刺青、とゆうのを見たのも初めてだったし、こんなにたくさんの色を一度に見たのも初めてだった」。

「私がムコさんと出会えたのは、奇跡だ」。

「僕はツマに会えたことは奇跡だと思っている。そしてその奇跡を日常に出来たことを、本当に幸せに思っています」。

ツマは、ムコさんには忘れられない恋人がいるのを知っているが、知らん振りをしています。

ある冬の日、突然、ムコさんの昔の恋人の夫から、ムコさんに一通の手紙が送られてきます。今頃になって、なぜ、手紙が送られてきたのか――。

ムコさんとツマの関係はどうなってしまうのか――。

西加奈子の魅力がぎゅっと凝縮している作品です。