本当に、ゲーテはすべてを言ったのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3604)】
タシギ(写真1~7)をじっくり観察することができました。バン(写真8、9)、シロハラ(写真10、11)をカメラに収めました。
閑話休題、お世辞抜きに、数十年間、これまで読んできた芥川賞受賞作品の中で一番面白いというか、私の好みに100%合致する小説が遂に出現しました。亡き父のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ好きが私に乗り移り、私もゲーテ大好き人間なのです。
『ゲーテはすべてを言った』(鈴木結生著、朝日新聞出版)のストーリーは至極単純です。
銀婚式に当たる結婚記念日に娘夫婦が連れていってくれた郊外のイタリア料理店。今や日本におけるゲーテ研究の第一人者とされる博把統一(ひろばとういち)の、コースの最後の紅茶のティー・パッグのタグに印刷されている「Love does not confuse everything, but mixes. Goethe」という名言の出典、すなわちゲーテの何という作品に載っている言葉かを突き止めようとする学者ならではの執念深さが綴られていきます。
「(学生の紙屋<かみや>)綴喜(つづき)と飲んだあの夜以来、統一の名言探しは暗礁に乗り上げていた」。
「統一君、言葉探しは学者の本文。ミイラ取りがミイラになったって構わない。でもね、言葉はどこまでいっても不便な道具です」。これは、統一の師であり義父でもある芸亭學(うんてい・まなぶ)の言葉です。
名言探しの途上で、統一は、「愛はすべてを混淆せず、渾然となす」は本当なのか? 愛はすべてをそれぞれのままで結び付けることができるのか? という疑問に囚われます。
本書のおかげで、『ファウスト』は非常に真面目な冗談である、とゲーテ自身が言っていることを知りました。
「大体、『ファウスト』は知識人の愚かしさを描いた劇なのだから、それを教授が物々しく解説することほど馬鹿馬鹿しいことはないとも言える」。
統一の名言探しの結末はいかに――それは読んでのお楽しみ。
これは本筋とは関係ないが、統一が愛用している、さまざまなメモを貼り付けるコルクボードを私も欲しくなってしまいました。
アカデミズムの世界を描きながら、「背筋を正すばかりで肩凝りのしてくるアカデミズム的枠組みに囚われない、自由闊達な」稀有な作品と言えるでしょう。