電子メディアの進化が招く直接民主主義の悪夢とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3632)】
【読書の森 2025年3月16日号】
情熱的読書人間のないしょ話(3632)
『メディア論集成――<電子メディア論>増補決定版』(大澤真幸著、人文書院)で、とりわけ注目すべきは、「電子メディアの共同体」の考察です。
電子メディアが進化した現在の、全ての情報にアクセスできるがゆえに、常にローカルな情報にしか接することができない状態を、「完成した主体こそはもっとも惨めな主体である」と表現しています。つまり、あらゆる世界の出来事を一望のもとに見渡すことができるという力を持ったわけだが実際には常にほんの一部のローカルな情報しか見ることができない、そういう惨めな主体になっていくというのです。
常にローカルな情報しか与えられずに、ローカルな視野しか持たなくなると、次第に、自分が日本という抽象的な共同体の中に属しているという感覚を実感として失っていきます。それだけでなく、もっと広くアジアや国際社会のような広いユニバーサルな共同体の中の一人のメンバーだという感覚を失って、自分自身が単なるローカルなネットワークの中の一員であるという感覚しか持てなくなるようになります。こうなると、民主主義は大変な危機に陥るというのです。
さらに、もし電子メディアによって直接民主主義という夢が比較的ローコストで実現できるようになればなるほど、逆にそれは一種の悪夢に近いものになっていって、空洞化し、無意味なものになっていくとまで、著者は危機感を露わにしています。
正直言って、少々理屈っぽい論文集です。