榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

読むことは私たちの人生を変える、そして、私たちの人生も読むことを変える・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3689)】

【読書の森 2025年5月6日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3689)

終日、雨――。我が家の庭師(女房)から、うちでも漸く、ジャーマンアイリスが咲き出したわよ、との報告あり。

閑話休題、『プルーストとイカ――読書は脳をどのように変えるのか?』(メアリアン・ウルフ著、小松淳子訳、インターシフト)で、個人的に、とりわけ興味深いのは、「熟達した読み手の脳とは?」の件(くだり)です。

認知神経科学者の手になる本書の内容は、かなり専門的です。そこで、乱暴なことは承知の上で、私なりに整理してみました。

●読字の熟達度がどこまで変化するかは、何を読むか、どのように読むかによって決まる。
●読む時の注意の質と人生経験によって読解の質が異なってくる。
●読むことは私たちの人生を変える。そして、私たちの人生も読むことを変えるのである。
●熟達した読字が最も高度な形をとるためには、さまざまな知的プロセスが一体化しなければならない。
●あらゆる文章に含まれている複雑な要素は、単語の意味や統語上の要件から、記憶にとどめる多数の概念的命題に至るまで全て、熟達した読み手の読解力に影響を及ぼす。
●私たちが37歳、57歳、77歳と年を重ねれば、17歳の時よりは登場人物たちのことをもっと理解できるようになる。

●文章と人生経験の動的相互作用は双方向的だ。私たちは自分の人生経験を文章に持ち込み、文章は私たちの人生における経験を変化させる。つまり、読字が熟達のレヴェルに達すると、ニューロンのレヴェルで変化が起こるのだ。
●熟達した読み手の脳では、右半球の言語システムが大活躍する。
●最終的に、熟達した読み手の場合、左右両半球のブローカ野に加えて、右角回を含む複数の側頭・頭頂領野と右小脳の関与が増大する。読字初心者の脳から見事な変化を遂げているのが分かる。脳のさまざまな領域を駆使するようになった熟達した読み手は、拡大を続ける知能の進化の生ける証である。

著者は自説を補強する材料として、何回も読んでいるというジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』と、世界最高峰の一つ、フョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の最も難解な一節、「大審問官」の物語を取り上げています。その秀逸な解説を読んだら、私も『ミドルマーチ』を無性に読みたくなってしまいました。そして、『カラマーゾフの兄弟』の作中作「大審問官」の主張が何を意味しているのか、理解を深めることができました。