榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

私は幸田露伴・幸田文の作品のファンです。しかし、二人とも友達にしたいタイプではありませんね・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3821)】

【読書の森 2025年9月8日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3821)

皆既月蝕――2025年9月8日2:28(写真1)、2:30(写真2)、4:16(写真3)。

閑話休題、私は幸田露伴の作品、幸田文の作品のファンです。しかし、二人とも友達にしたいタイプではありませんね。でも、こういう強烈な個性の持ち主だから、読者の心を鷲掴みにする作品を書けるのでしょう。

幸田文』(幸田文著、川上弘美編、文春文庫・精選女性随筆集)に収められている随筆も、なかなか個性的です。

●終焉
秋、父はめっきり弱り衰え、足腰の不自由に黙々と耐えていた。・・・仰臥し、左の掌を上にして額に当て、右手は私の裸の右腕にかけ、「いいかい」と云った。つめたい手であった。よく理解できなくて黙っていると、重ねて、「おまえはいいかい」と訊かれた。「はい、よろしゅうございます」と答えた。・・・手の平と一緒にうなずいて、「じゃあおれはもう死んじゃうよ」と何の表情もない、穏やかな目であった。私にも特別な感動も涙も無かった。別れだと知った。「はい」と一ト言。別れすらが終ったのであった(この3日後に、露伴は79歳で死去)。

●捨てた男のよさ
念のために云っておくが私は、夫という特別の一人の男を、好もしくなく、いやだと云って離婚して出て来ちまった経歴をもつ女である。・・・いまさらよくも、男はいいなあなど云えるはずはないのに、時間の車にひしがれて砕けたきょうこのごろは、息を吸って、いいなあと云う。・・・私の亭主は太公望ではなくて、えらい出世はしなかったし、平凡な人だった。知人たちもそう云う。その平凡な男を平凡な女が捨て、女の父親のこれも或種の捨てられが仏頂面をしたところから、現在わからないことだらけで困っている私に、男はいいなあという平凡な喜びが生じているのである、と云いたい。

●二番手
私はこの二番手を走る馬ほど好きなものはありません。先頭でもなし、三番四番と落ちているのでもなく、二番を走っている切なさ、苦しさはどんなものだろう、と思います。・・・いつも常に、二番でせっぱつまって走っている馬がいるんです。一番との間をぐうっとつめてきて、並んで、そしてハナがせります。その時の二番をみて下さい。もうすでに力はつきそうになっているくせに、懸命です。そういうのもあれば、悠々とあまる力をだして、颯爽と脚が伸びているのもあります。美しいというか、立派というか。ぶるぶるする興奮があります。

何とも、個性的ですね~。