榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

上司と部下の危険な関係・・・【リーダーのための読書論(12)】

【医薬経済 2008年3月1日号】 リーダーのための読書論(12)

堀田力の「おごるな上司!」』(堀田力著、日経ビジネス人文庫。出版元品切れ)の著者は、「褒めるべきときに褒め、叱るべきときに叱る上司」が最もよい上司で、「褒めるべきときに褒めず、叱る必要のないときに叱る上司」が最悪としている。

著者は自らの経験から、「人は己の能力を2割がた高く評価している」と喝破している。人事評価を行う者と人事評価を受ける者との間に評価の落差が2割ぐらいあり、このギャップが人事評価や人事異動に対する不満となって噴き出てくるというのだが、彼が法務大臣官房人事課長となって秘密資料を見ることができるようになったときに、自分や同僚の過去の人事記録を調べたうえでの見解だけに説得力がある。自分の能力を否定的に捉え実力以下に評価している者より、自分を高めに評価している者の方が活気があり、態度が明るく、伸びる可能性が大きいが、自信は実力の2割増しまでにとどめるべきで、度を超すと自信過剰に陥り、逆に周囲に悪影響を及ぼすと警告している。

「不平不満は周りの人の心を汚す」という鋭い指摘もある。では、不平不満に対応するとき、どう判断すればよいのか。この問いに対して、その者の不平不満にどれだけ正当性があるか、一方、その不平不満のマイナスがどれだけか、この両面から考えるべきと述べている。一般社員の場合は、漏らす不平不満がその者の力量の半分を超えたらマイナスと判断してよい。この許容限度は、組織における地位が上がるにつれ厳しくなる。課長が不平不満ばかり言っていたら、まず間違いなく、その課全体が腐敗する。次に、隣の課長にも影響を与えて腐敗が伝染していく。さらに、その影響力の及ぶ範囲がますます拡大する部長以上の地位ともなれば、許容限度はゼロと見てよい。ぼやく暇があるなら、不平不満のもとを積極的に除去する努力をすべきと手厳しい。

この本には、組織を生き生きとさせるための処方箋が書かれているが、著者が一番言いたかったことは、「汝の部下を愛せ」ということだと思う。部下は上司を選ぶことができない。どんなに優れた上司であろうと、いわれなく部下を不幸にする権利を持っていいはずがない。権限の力を自分の実力と思い誤ったときから堕落が始まる。そして、管理職が堕落した瞬間から組織は腐り始めるのである。

仕事のまかせ方の研究――人を使い育てる人の哲学とノウハウ』(鎌田勝著、日本実業出版社)の著者は、「部下に仕事を任せると部下が成長する、任せた上司も成長する、任せたことにより上司にゆとりが生まれ、自分の上司を補佐することができる、そのことによってさらに成長することができる」と言い切っている。

仕事を任された部下が成長するということはともかく、任せた本人も成長するという考え方は独創的である。自分が伸びようと思うなら思い切って任せよ、というのである。部下に任せるときは、自分の仕事のうち重要度の比較的低いものから任せていくのがポイントだが、いずれにせよ、その分だけゆとりができる。そのゆとり分だけ、もう1ランク上の仕事ができるのだから、さらに伸びるというわけである。

リーダーは戦略の策定に集中し、戦術の研究は部下に任せるべきである。戦術の失敗は戦略でカヴァーし得るが、戦略の失敗を戦術でカヴァーすることはできないからである。