榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

人間はAIに仕事を奪われてしまうのかという問いに、本書はきっちりと答えている・・・【続・リーダーのための読書論(87)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2019年7月16日号】 続・リーダーのための読書論(87)

人間とAI

AIにできること、できないこと――ビジネス社会を生きていくための4つの力』(藤本浩司・柴原一友著、日本評論社)は、人間はAIに仕事を奪われてしまうのかという問いに、きっちりと答えを出している。そして、AIに仕事を奪われないために、何をすればよいのかも明らかにしている。

知性

人間に備わっている知性とは、「自分で考えて環境に対応し、より良い成果を達成する能力」と定義できる。「より良い成果を達成する」ためには、「課題を自分で見つけて解決する」ことが知性に求められる。

「課題を自分で見つけて解決する」上での流れは、4つの要素で構成されている。①動機=解決すべき課題を定める力(解くべき課題を見つける)、②目標設計=何が正解かを定める力(どうなったら解けたとするかを決める)、③思考集中=考えるべきことを捉える力(解く上で検討すべき要素を絞る)、④発見=正解へとつながる要素を見つける力(課題を解く要素を見つける)。

AIにできること、できないこと

現在のAIは、知性を持つには程遠い状況にある、というのが著者の結論だ。①動機=解決すべき課題を定める力がなく、人が決めなければならない、②目標設計=何が正解かを定める力がなく、人が決めなければならない、③思考集中=考えるべきことを捉える力は弱く、人の知見に頼る面も多い、④発見=正解へとつながる要素を見つける力は、質より量でカバーされている、⑤知性の4要素を組み合わせる力は、ほとんど手つかずである。

今後のAIと人間

「知性を実現するためには、これまでの研究とは大きく質の異なる力をAIに搭載できなければなりません。ブレークスルーはそうそう起きないという過去の歴史に鑑みれば、知性の実現に必要な要素が確立されることは、近い将来ではありえないでしょう。そんな現在においては、いかにして知性を持たないAIを効果的に活用するか、そしてそれを形にするAI設計者の能力が重要となります。AI設計者が設計の仕方を誤れば、さぼったり暴走したりする可能性は十分にありうるのです」。

「大発見でもない限り、万能なAIが誕生するのはまだまだ先でしょう。ディープラーニングも、AI研究者からすればこれまでの積み重ねの先に到達した結果であり、突拍子もない大発見ではありません。しかし、AIが今後の主要な研究になることは間違いないでしょう。その過程で、これまで別個に行われていたさまざまな研究が、AI研究へと集まってきます。すでに物理学はAI研究に活用されていて、物理学者もAI研究へと参画してきています。新たな分野から集められた知見が、AIを加速度的に進化させる可能性も否定できません」。

「着実に技術開発は進んでいくでしょうから、AIが次第に人間にとって代わる範囲を広げていくことは間違いありません。AIはあくまで人間を助けるために生み出されたものであって、敵ではありません。しかし、うまくAIと付き合うことができず、AIに仕事を追われる人が出てくる可能性はあります。そうならないためには、お互いが苦手とすることを補い合う、つまり『AIが苦手とする部分を補うことで、AIと人間とがうまく共同作業して生産性を高めていく』ことが重要でしょう。よって人間に求められるのは、AIが苦手とする『動機=解決すべき課題を定める力』『目標設計=何が正解かを定める力』『思考集中=考えるべきことを捉える力』の3点だといえます」。