榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

意志力=筋肉だ、使い過ぎると疲労するが、鍛えることができる・・・【MRのための読書論(91)】

【Monthlyミクス 2013年7月号】 MRのための読書論(91)

意志力は筋肉だ

近年、「意志力」に対する関心が高まっているが、『WILLPOWER 意志力の科学』(ロイ・バウマイスター、ジョン・ティアニー著、渡会圭子訳、インターシフト)の内容の充実度と説得力は類書を圧している。その主張が、何百回となく行われた実験によって裏付けられている点が、本書の強みである。著者のロイ・バウマイスターこそ、「意志力=筋肉」説の提唱者なのだから、当然といえば当然だ。

実験から明らかになったこと

バウマイスターらの研究成果から明らかになったことを挙げてみよう。

●意志力は筋肉のように、使い過ぎると疲労するが、鍛えることができる。●意志力の出所は一つであり、そのエネルギー量には限りがある。●意志力が弱まると、刺激や欲望を普段より大袈裟に感じ易くなる。●重要なのは、意志力をいかに無駄に使わないかだ、いかにうまく配分するかだ。●意志力を直ちに強くできる方法がある。

「自己コントロール能力(=意志力)は人生におけるきわめて重要な力であり、成功する鍵なのだ」。

意志力強化法とは

それでは、意志力を強化するには、どうすればいいのか。

●自己コントロール力は、記録を付けるほうが高められる。自分を数値化することによって自分を客観的に見ること、そして、自分の努力の成果を数値で確かめることができるというわけだ。記録を公開するなど友人とともに進めるとさらに効果が上がる。●計画を立案すると、実行しなくても、「頭の中のサル」を追い出すことができる。「頭の中のサル」とは、やらねばならない他の仕事のことがしょっちゅう気になって、現在取り組んでいる作業に集中できないことを意味している。●「絶対止める」よりも「後でやろう」と考えるほうが、欲望を我慢できる。無理して我慢した後は、次の誘惑に負け易いのだ。●先延ばしは意志力のエネルギーを消耗させるが、防ぐコツがある。●一つのことで欲望をうまく抑えることができれば、生活のあらゆる面に波及する。だから、一度に目標を広げずに、重要な一つに絞って集中すべきなのである。

これらの強化法は、仕事だけでなく、アルコール依存症や夜更かし、食べ過ぎ、浪費癖からの脱却、禁煙、健康的なダイエットなどにも応用可能である。悪い習慣を断ち切り、よい習慣を確立しようとするとき、自己コントロール力が目覚ましい効果を発揮するのだ。

意志力とグルコースの関係

著者の、「グルコース(ブドウ糖)なくして、意志力なし」との主張には、正直言って、一瞬、緊張した。なぜならば、私は糖質制限食という一日三食とも糖質を制限する方法で腹囲を20cm細くするダイエットに成功し、現在も体形を維持しているからである。

しかし、読み進めていくうちに、「体はエネルギーを最も手っ取り早く手に入れる方法として甘いものを強く欲するかもしれないが、糖分の少ない高タンパクの食品やその他の栄養のある食品も、甘いものと同じ働きをする(甘いものよりも効果が出るのに時間がかかるが)」という記述に出合い、ホッとした。  

アフリカ探険家の秘訣

1871年に、苦労の末、アフリカで消息不明となっていたデイヴィッド・リヴィングストンを発見した時、「リヴィングストン博士でいらっしゃいますか?」と呼びかけたことで有名な探険家のヘンリー・モートン・スタンリー。彼が過酷な環境のアフリカのジャングルで何年間も生き延びた秘密は、時代は隔たっていても、私たちが自己コントロール力を強化しようとするときの参考になる。「自己をコントロールできるようになればストレスが減り、意志力を重要なことに注げるようになるため、結局はリラックスできるようになる」のだ。

因みに、私の憧れの探険家は、リヴィングストンと、奴隷貿易反対などリヴィングストンの考え方を受け継いだスタンリーである。